高知はポートランドやカールスルーエのような特色のある都市になる
 
西村 今月のゲストは筑波大学大学院生の野本靖さんです。野本さんは香南市夜須町の出身です。大学では都市計画を勉強され、漁村の研究もされています。鉄道や自転車に興味をもたれています。
 ブログ「今日も自転車は走る」やサイト「土佐の高知の鉄道」なども開設されています。自転車の効用や鉄道や路面電車に大変興味を持たれています。

 今回のテーマは「高知はポートランドやカールスルーエのような特色のある都市になる」でお話をお聞きします。

 
 アメリカのポートランド市。路面電車を市内中心街に乗り入れ、トランジットモールをこしらえ、中心市街地の活性化に成功したようです。自動車交通の先進国であるアメリカでなぜポートランドは上手く行ったのでしょうか?
 
野本 話は1970年代にまでさかのぼります。ちなみにポートランドにも路面電車はありましたが、1950年代にいったん廃止されました。「1990年計画」で、当初16本の高速道路(フリーウエイ)の建設が計画されましたが、すべて反対運動にあい、法定闘争に持ち込まれ3本以外はすべて中止されました。
 
 そのとき同時に政策は大きな転換を行いました。それはトランジット(公共交通機関)を整備する、トランジット整備とリンクした都市開発を実施する。駐車場をこれ以上新設しないという、まさに交通のパラダイムシフトと言ってもいい内容でした。

 バス路線の整備はそのときから始まっていますが、活気的な転換は1986年の「MAXライトレール」の開業です。ダウンタウンと郊外のグレシャム市を、鉄道路線で結ぶ鉄総路線が開通しました。
 この鉄道は、かつての路面電車とは異なり、ダウンタウンでは歩道から気軽に乗れる市外電車。郊外に出ると駅間も長く高速運転もする郊外電車と2つの機能を融合した形になっています。1998年、2001年、2004年にも延伸され、現在さらに新路線を建設中です。それとは別に、市内電車(もちろんかつての電車より近代的なスタイルで)ある[ストーリーカー」も市が独自で整備して、大きな沿線開発効果を上げました。

 
 一連の取り組みは連邦レベルでの手厚い補助もさることながら、都心部無料などのユーザーサイドの政策、中心市街地を魅力的にする努力(ショーウィンドー、アートボーナスなど)。都市の成長管理などの明確な方向性をもった都市計画のビジョンの賜物です。
 
西村 ドイツのカールスルーエは「市内のトラムをネットワークを拡充するためにドイツ国鉄網に乗り入れて広大な路線網を築いてきました。」と野本さんはレポートされています。具体的にはどういうことでしょうか?
土佐電鉄「アンパンマン」電車。写真は浜田光男さん提供 高知市外を走る土佐電鉄路面電車。野本靖さん撮影・
 
野本 カールスルーエのトラムは土佐電鉄の路面電車よりも27年前の1977年に開業しました。開業以来廃止されずに路線を維持してきましたが、15年前の1992年に大きな快挙を成し遂げました。それはトラムのネットワークを低コストで拡大する為に、ドイツ国鉄(当時)へ直通し、国鉄の旅客鉄道と路線の共用を実現しました。
 
 これは並大抵の熱意ではなかったそうです。ドイツなどでは地域の交通を担う電車類(トラム、地下鉄など)と長距離を走る列車(ヘビーレール)との性質は、同じ鉄道と言っても隔たりは相当なものです。
 何しろ鉄道には、長編成の国際特急列車、さらにドイツ新幹線ICEも走っています。そこに市内からトラムを走らせることは、レールの幅が同じでも日本で路面電車をJR在来線に直通させるよりも、容易なことではないと考えられます。
 
 カールスルーエはそれを利便性向上のためにそれを実現したのです。電圧の違い(路面電車・直流750V、ドイツ鉄道・交流1500V)、信号系統、保安装置など技術的な問題、運行上の問題、法律の問題、運転士の訓練など。様々な解決すべき課題はありましたが、それを逐一クリアして直通運転を実現しました。
 
 結果は大成功で、郊外から乗り換えなしで都心へのアクセス効果、本数の増加、安価な料金体系と相まって以前の5〜10倍に乗客数が増えました。それは当然ながら中心市街地の活性化にも貢献しました。1992年以降、現在まで直通運転を順次拡大しています。その成功は「カールスルーエモデル」と呼ばれ、カールスルーエを一躍有名にしました。
 この取り組みは、ザールブリュッケンやフランクフルトなどドイツの都市のみならず、フランスや日本(熊本電鉄と熊本市交通局が計画中)にも広がっています。
 
 このカールスルーエモデルは高知でも応用できそうです。かつて安芸線で、規模、スケールも全くかないませんが、路面電車が安芸まで直通していました。ごめんなはり線が開業し、高知県東部に鉄道が復活した今、それを現代にグレードアップした形で復活させることは大いに意義のあることでしょう。
かつて安芸ー高知間は土佐電鉄は直通運転をしていました。写真は野本靖さん提供。
 
西村 野本さんは「環境保護を真剣に地方都市が考えるのであれば、自動車使用量を減少させないといけない。」と言われています。その目標を達成するための方法手段を教えてください。
 
野本 これは、ちょっと勉強不足なのですが、手段はいくつもあります。クルマは環境に悪いので控えるべきだという哲学だけでは、まず減らせません。政策での裏づけや、仕組みを整備することが重要になってきます。
 
 一つ目に、自動車に替えて利用してもらえる、公共交通の整備や、自転車利用環境の構築です。そうでないとなるべく動くなということになってしまいます。ハード面ではなく、料金や情報面のソフトの整備も鍵を握っています。
 二つ目に、ロードプライシングや駐車料金の値上げ、乗り入れ制限、違反取締りの強化など自動車利用を不利にする方法。利便性を制限するのでいかに納得してもらうかが重要です。
 三つ目にTOD(Transit Oriented Development)と呼ばれる公共交通を重視した開発方法です。他にも色々あります。
 
西村 キーワードに「コンパクトシティ」があります。「スプロール」と対極の都市づくりの方法であると思います。高知市は今後の都市づくりはコンパクトシティで行くべきでしょうか?
 
野本 現在は、商業施設は郊外に脈路なくバラバラに拡散しています。公共施設も一部が公共交通でアクセスが難しい郊外に立地しています。
 高知市は、もともと東西に長い形態をしていますから、必ずしも、超コンパクトシティである必要はないと思います。公共交通の軸線上に、再活性化を図る線上にコンパクトシティのほうが、向いているでしょう。
郊外型商業店舗が出来ることにより、地方都市中心街はどこも寂れ「シャッター通り」になっています。
 
西村 最近は「カーシェリング」という言葉もよく耳にします。具体的にはどうすることなのでしょうか?国内での事例はありますか?また地方都市にも広がる可能性はありますか?
 
野本 「カーシェアリング」とは、数人から数千人と規模は様々ですが、自動車を共同で管理し離床する仕組みです。例えば協会に加盟し、年会費などの会費を払う。利用のたびに、車種や走行距離、利用時間により使用料を払うというシステムです。レンタカーに似ていますが、日常生活でも気軽に利用できるところが大きな相違点です。
 
 これは無駄な自動車利用を押さえる上で大変有効です。現状では、いったん自動車を保有してしまうと、それを最大限に使ったほうが安上がりなるので、公共交通機関が利用できても自動車を無理に使ってしまいます。購入、所有に高くつき、利用にかかる費用が比較的安いですから。
 
 カーシェリングにするとそのような無駄な利用ををなくすことができます。利用料金にはガソリン代以外にも、購入費、管理費用、整備費用が含まれた形ですので、それなりに割高につくでしょう。だから便利な鉄道が並立しているのに車で行く、ちょっと500メートル先にタバコ買いにクルマで行くなんて利用は、まず考えられません。
 例えば、休暇で家族旅行で使う。大きな荷物を運ぶ。山岳地など鉄道でいけない場所に行くときなど、自動車の利点を大いに発揮できるときにこそ、自動車に大活躍してもらうことが可能になります。
 
 利用者にとっては、用途(利用人数、荷物の種類、目的地)に応じて、適した車種を選択できる、賢く使えばマイカーを保有するよりずっと安上がりになるなど、明確なメリットがあります。現状でも、家庭でも2台目の自動車の代わりになることはできると思います。

 質の高い公共交通機関、自転車利用のサポートで、大部分のニーズを満たし、残りの部分をカーシェアリングでまかなうとすれば、大幅に自動車利用は削減できます。
 日本では横浜市で実験的な取り組みがあるみたいです。高知県ではとくに経済的メリットが大きいかもしれません。

 

西村 高知に「路面電車博物館」は必要ではないでしょうか。もしくはバスの博物館もふくめて地方公共交通博物館もこしらえたら良いと思いますが。高知県民の「心のふるさと」になるのではないかと思います。

アメリカセントルイス市の商業施設「ユニオンステーション」のなかには、かつての大陸横断鉄道の列車が展示してあります。

この商業施設は「駅」だったのです。商業施設とホテルの複合施設です。本物の鉄道列車は買い物客にも大人気でした。

 
野本 確か[土佐電鉄の電車とまちを愛する会」の浜田光男さんも提案されていました。路面電車の博物館はどこにもないですから。こしらえる意義は大いにあるでしょう。そこでは日本の路面電車のみならず世界のLRTの写真や模型、土佐電鉄の歴史のみならず、運転シュミュレーターも置いたらいいですね。できれば、各地で引退した車両も展示する。常時、実物の車両を体験運転できるとなれば、アンパンマンミュージアムに匹敵する集客装置も夢ではないと思います。

 バスのほうも、最近、高知県交通が旧型モノコックバスのうち1台を動態保存することを決めました。土佐電鉄もボンネットバスがありますし。旧型バスがまだ残っています。ここ最近で激減しましたが。
 ただ博物館は現実のインフラではないので、肩肘はらずに気軽に考えていきましょう。

 
西村 市民の合意形成が必要であると思います。中学生に説明するとすれば「どのような都市政策」を実行すると説明すればいいのでしょうか?
 
野本 これは、正直どう応えたらよいか難しい。あえて苦し紛れですが、[自分達が住んでみたい。誇りに思える、外からも行ってみたいと思われる街にする。」また、[サスティナブルな環境調和を目指す都市づくりを実行する。」と説明すればよいかと思います。
 「もちろん、街の姿はあなたひとりひとりの行動の集積です。一緒に街をつくっていこうじゃないか!」とこういうあたりでしょうか。
福井電鉄 路面電車に郊外電車が乗り入れ(浜田光男さン写真提供) 京浜急行の車両。野本靖さんは電車の理想と言われています。野本靖さん提供。
カールスルーエに関しては、以下のサイトが写真も説明も豊富で大変分かりやすいです。

<独墺四都市紀行>


http://www16.plala.or.jp/caw99100/europa/2/index.html

http://www16.plala.or.jp/caw99100/europa/3/index.html

http://www16.plala.or.jp/caw99100/europa/3/karlsruhe.html

 

<ポートランド市公式サイト>


http://www.travelportland.com/index.html

http://www.travelportland.com/japanese/home.htm(日本語サイト)

<Tri-Met Officall page>

 
ライトレールやバスの運営組織であるトライメットのオフシャルページです。

http://www.trimet.org/index.shtml

ライトレールの写真多数あり。

http://world.nycsubway.org/us/portland/max.html

http://trolley.net/annex/trimet.html

http://usarail.hmc5.com/city_portlandor_jp.htm

http://www.jterc.or.jp/koku/ht-report/or-st/oregon.htm