品川正治さん講演会 その2
 
■日本国憲法の大きな意義
 何よりも国民はあの憲法のおかげで、60年間ひとりの外国人も国家主権という名のもとに殺したことはございません。世界史では極めて珍しい歴史なんです。小さな国ではございません。世界中で仕事をしている国なんです。
 それは主権の発動としてはひとりの外国人も殺していない、それと軍需産業が中心となった経済構造を持っていない国なんです日本は。それで世界2位の経済大国になっているわけなんです。アメリカをはじめヨーロッパ先進国は軍産複合体という軍需産業を中心にした産業構造ができあがってくるわけなんですが、日本は世界二位の経済大国になりながらそのモデルとは全然関係がないというそういうスタイルの国になりました。
 その意味ではあの憲法の果たした役割というのは非常に大きいんですね。しかしここでひとつみなさん方に申し上げておかなければいけないのは、支配政党の側は二度と戦争しないという決意はしていないんです。なんとか軍は持てないか、なんとか戦争をできる国にならないか、ということの方がむしろ支配政党だった。60年間そのねじれがあるんです。
 今後はアメリカ軍の再編が行われ、自衛隊はアメリカ軍の「一部」として世界中に派遣される可能性があります。
 解釈改憲と称して憲法は変えない。しかしその範囲内でできることは支配政党としては全部旗を破るための作業をやってきました。しかし国民は旗竿を離さないんです。ボロボロになった九条二項をその旗竿を国民は離さないんです。それを今離せと言ってきているのが今の憲法の問題の核心です。もうあの旗竿を離してもらわないと、一歩も進めないという判断を支配政党の側はし出したのです。にもかかわらず国民は旗竿から手を離そうとはしない。このせめぎ合いが現状なんです。大きなねじれです。60年間のすごく大きなねじれなんです。
 こんなねじれは、これも世界史上稀だと思うのです。それともう1つ極めて難しいことはあの日本の九条二項というのは正義の戦争さえ否定しているわけです。戦争そのものを否定しているわけです。これは他の国には通用しません。この考え方は日本独特なんです。コスタリカという中南米の国がひとつよく似た憲法を持っております。世界120何ヶ国の中で日本国憲法のように、正義の戦争も認めないと規定している憲法を持っている国はありません。
 1947年の日本国憲法発布式の様子。皇族も来られ祝いました。
 仮にフランスでもし日本国憲法の意味を説明しようとして平和主義という言葉を使いますと、これは軽蔑の用語になるんです。フランス人は1938年のヒトラーと当時のダラディーエ首相、イギリスのチェンバレンこの3人が集まってチェコスロバキアの処分に関してヒトラーと妥協した。これがフランス人にとっては平和主義というものを頭から否定してかかる信条のひとつを構成しています。しかし何よりも強いのは、フランスの現在あるのはレジスタンスなんだと。ドゴール首相率いるレジスタンスがドイツと戦い現在の地位を守ったんだと。こういう意見が、われわれが第二次大戦の惨禍を思い出すと同じくらいに強くフランス人の心に残っている光景なんです。
 その向かいのアルジェリアに目を移しますと、アルジェリアはフランスと解放戦争をやったことによって独立したんだと、正義の戦争がないなんて言われたら自分らの独立はなかったんだと。なによりもこの言葉を使えないのは中国です。中国の現在の政権は抗日救国戦線というのを戦い抜いて、ついに植民地化されていた日本から完全な独立を勝ち取ったのは、日本との戦争に勝ったということなんです。これが現在の中国政権の根拠です。それを必死になって教えるのは当たり前なんです。自国の正当性なんです。そういう意味では日本の平和憲法九条二項の精神というのは世界でたったひとつなんです。もし我々がこの旗竿離せば、地球上からこの思想は消えていくわけなんです。
 冒頭申し上げましたように、全体の今日のお話しの私の座標軸というものをもう1度改めて申しますと、国が戦争をしてをおるときに国民がどうあるべきかという問題の立て方が間違っていうことを戦地で気がついたわけんです。戦争を起こすのも人間ならばそれを許さないで止めようと努力できるのも人間なんだと。これが私の戦争に参加しそれで日本国憲法を復員して目にしたときからの私の一生を貫いている考え方なんです。
 もう1度申します。戦争を起こすのも人間ならばそれを許さないと、止める努力をできるのも人間だと。それが今日私が皆さんにお話しする一番申し上げたいことなんです。私は現実にその姿勢のままで現在82歳まで生活をしてきました。その間経営者もやり経済活動もやりました。しかし基本的にはその線は一度も崩したことはございません。