アルコール問題を真剣に取り組もう

 今週のゲストは、医療法人共生会理事、下司病院事務管理部長下司孝之さんです。
今日のテーマは「アルコール問題を真剣に取り組もう」です。
 年度も替わり、大学や事業所では「新入りの歓迎会」「歓送迎会」と称して酒席がもたれる機会が多いと思われます。お酒は人間関係の潤滑油といわれる反面、人間関係を破壊し、大変な社会問題を引き起こします。下司さんはアルコール問題研究所にて、警鐘を鳴らされています。


下司さんは、「高知アルコール問題研究所」のホームページのなかで、「終わらない東名事故」と「高知国体の乱れた酒」という論文で「土佐っ子の酒問題」を指摘されています。どういう部分が問題なのでしょうか?

お酒の効用とか楽しさは随分と宣伝されてきました。しかしわたしの病院へ来る人達はとにかく困り果てて来る訳です。しかし本人はアルコール依存症とは認めない。その形で来られる人が大変多いのです。
酒の上での飲める人が「偉い」という高知県の県民性があります。飲めない人が「またい」とかいう社会風潮が高知県では根強くよくあります。過った英雄主義が問題だと思います。酒は個人のペースで適量を楽しむのが一番だと思います。
献杯の強制や俺の酒が飲めないのかという上下間系で人間関係を壊してまで飲酒するものではありません。人間関係を上手くいかすためにお酒を飲むのだけれども、すべてがお酒を飲む口実になっています。そういう高知のお酒の飲み方が問題であると思います。人間関係を築くことよりも酒を飲むことに重きをおいているのではむなしいと感じます。
 国体の酒のことも問われました。国体もこういう「土佐の酒」の延長でお酒が飲まれていました。しかも高校生を巻き込んでいたというのは許せないと思います。国体は「口実で飲むことが目的化している。」、参加した高校生をだしにし、自分が飲む為に未成年者にも飲ませている場面にはぎょっとします。
 また高知県の産業にも重大な影響を与えた出来事がありました。
 県園芸連のマークをつけたトラックが飲酒した運転手によって、ひき起こした東名事故が二人の子供を焼き殺し、これをきっかけに日本の道路交通法を変えてしまったわけですから高知県民としては他人事で済まされないのです。許容した会社も大きな痛手を被り、飲酒運転をした運転手さんも刑事罰を受けたわけです。
はっきりしたことはこれ以降会社は飲酒運転をしたらかばってくれなくなったということです。
だったら、運転者はどうすればいいのか、考えるしかないではないですか。

 

3月20日に開催されました「番組出演者交流会・新堀川七輪サロン」には下司さんはご夫婦で参加されました。

 お酒は「飲まれる」ものではなく、少量を気の置けない仲間と嗜むものだと下司さんは言われました。

酒の飲み方自体もあるとき3時迄一緒した人が翌日何も覚えていないような現実にぶつかると酒飲みと真面目に議論をしても無駄におぼえます。わたしは殆どお茶を飲んで議論をしていました。つくづく酒飲みと議論をしても仕方がないと思いました。お酒の飲み方を高知県人は変えなけばいけない。現状から私はそう思っています。
アルコール依存症とはそもそもどういう症状なのでしょうか?いわゆる「アル中」と言うのでしょうか?またその治療法はどういう方法があるのでしょうか?


 アルコール依存症とは多くの問題飲酒者というアルコール予備軍に囲まれた病的な過度の飲酒者だと思います。「アル中」と昔よく云われていましたが、差別的な表現でアル中は職場にいらないと排除されうる言葉です。普通には酒害者とかアルコール依存症者と云われます。
 100人の男性の職場があるとすれば、うち20〜30人のひとが「問題飲酒者群」と言えます。予備軍はそれだけいます。そのなかで病的になった人が「アルコール依存症」と言われています。「アル中」というのはあまりにも「差別的」な表現です。アルコール依存症は酒害者なのですから。それは最近みなさん理解していただけるようになりました。
 でも職場には不用ということで、排除され、簡単に首切りをされてしまいます。それが現状です。
 断酒会で自らを「アル中」と名乗るのはかまいませんが、他人を指したり、病気の人にいう言葉ではないと思います。病気ですから当然治療することが出来ます。


 昔は酒が嫌いになる薬を飲ますと云う薬物療法がありましたが、だんだん精神療法を加味するようになります。それを集団でやっていこうというのが「断酒会」です。集団で安く仕上げるという点では断酒会が有効です。
全世界で断酒会というどこでも誰でもできる方法が一番だと認められています。
仲間とともに治す、そういう考え方は個人がバラバラになっている現代に一つの方向性をみせている、そう思います。

アルコール依存症にかかっている人は日本で240万人。家族を含めると1000万人。厚生労働省などの対策、WHOなどの勧告はどうなっているのでしょうか?
 煙草に対する対策から言えば、お酒は圧倒的に遅れています。煙草はすでにコマーシャルがなくなりました。お酒に関しましても「規制緩和」のご本家のアメリカでも酒を美味しそうに飲むコマーシャルはありません。アメリカへ旅行に行かれるときには注意しなけばならないことがあります。公園で飲酒をしたり、ニューヨークの街中を飲酒しながら歩いたりしますと逮捕されます。日本では公園で花見酒なんてありますが、アメリカではとんでもない話なのですね。
 酒害の警告を缶ビールなどには書いてあります。日本の酒メーカーも輸出したものには書いています。日本では余り書いていません。
 それはお酒を徴税の対象としてしか見ていない財務省の権限が強く、国民の健康増進をはかる厚生労働省の権限が弱かったのですね。だから健康面への啓発活動も弱いのです。
 WHO(世界保健機構)は物凄く最近踏み込んで来ています。以前はお酒は1合が良いとか言ってはいましたが、今は「少なければ少ないほど良い」という言い方になってきています。それが「世界の常識」になっています。
 ヨーロッパの各国でもお酒の飲む量が減ってきています。ぶどう酒のフランスとか、お酒の強いとされていた英国でも飲酒量がどんどん下がっています。日本はそれと比較して飲酒量が増えています。これをなんとかしなければならない。それが実情です。
 酒を飲める人なら誰でもかかる病気として、今では特別な病気ではなくなりました。一種の生活習慣病で、進行性で、社会的な広がりを持つ病気です。
 
アルコール依存症は、本人だけでは治療が難しいと言われています。周りの協力、医療機関、社会の協力はどうあるべきなのでしょうか?
廻りを巻き込んでゆく病気ですからまわりの地域・職場・家庭が行政や医療、必要なら労働組合や宗教等の助けも借りて本人にあたる必要があります。
職場では飲酒運転本人の首切りを唯一の対策とするのではなく、本人がたち治りたいという意欲をみせ、実際に治療や断酒会につながっている以上はアルコール依存症であることを告げても本人の不利な扱いにしないよう、労使で協約を結ぶ方法があります。実はこれはアメリカの企業で行なっているプログラムなのですが、ベテランの社員を失うよりは安くつくと云うしたたかな計算の元のEAPというシステムです。
 家族はいち早く巻き込まれる存在ですから、独自に家族会等で立ち直りを計ると良いと思います。下司病院にもありますし、高知市などの保健所にもあります。
断酒サマースクールの様子
 
断酒会について伺います。1人や孤立しての断酒は難しいと伺いました。断酒会はいつ頃発足し、どのように発展してきたのでしょうか?

日本の断酒会を立ち上げた男としては高知の松村春繁氏がいます。断酒会は徹底して飲酒した過去にこだわり、繰り返し体験発表を行なっていきます。  
こうした中で人間性が変わってきて、ただたんに酒をやめているだけではない人間が出来てきます。こうしたなかで「アル中になってよかった」と云う言葉が聞かれるようになるのです。 松村は社会党に所属し、氏原高知市長等と労働運動でつちかった人をオルグする天才的な力で全国を行脚し、断酒会を普及しました。


 とことん飲んでいた高知県から全国に発信した一つが断酒会であったことは面白いと思います。酒害者の家庭を訪問した帰りのバス停で葉書を書いている、帰ったと思ったらもう断酒会への誘いがついている。このような緻密なオルグは右派の民同という労働組合活動家にみられ、共産党よりも腰が強かったと聞いています。
 政治的な押さえ込み、例えば革命にしても、政治や軍事、宗教の革命だけでは成し遂げられない部分への配慮が近代政党にはいるのだと思うわけでマイノリテイ−ヘの配慮が革命が反革命と競り合うときに必要だと思うわけです。こう考えると松村精神は公民権運動の一つとしても大事な役割を持ち続けられるし、他の多くの自助運動に影響を及ぼせると思います。

現在の断酒会はどのような活動をされているのでしょうか?また行政機関、医療機関、酒販業界との協力体制はどのようになっているのでしょうか?
 断酒会は「例会出席・一日断酒」をスローガンに掲げて、仲間にあうこと、一生断酒ではなく今日一日だけは飲まないで頑張ろう、明日になればまた今日一日は飲まないで頑張ろうと云うことです。また、社会的な広がりとしては高校生への酒害体験による啓発があります。高校生は非常によく聞いてくれて感想文も本当によく書けています。私は昨年、高知大学生に話しをいたしましたが、大学生は客観的に聞くことで自分の言葉がなくて高校生程の文章をうまく書けません。
断酒会だけでは賄え切れない鬱等の病状もあり、それは医療の分野です。行政とは啓発等でおつき合いが出てきており、自助グループのお手本のような立場です。なにしろNPOを取得している断酒会も数多くありますが補助金をくれと決して云いません。
酒販業界とは、世の中から酒を無くそうと云う禁酒の廃酒運動ではありませんから対立はしていません。業界も細く長く付き合える酒飲みが有り難いのであって、沢山飲んで早死にする方を歓迎しているのではないと思います。酒屋の敵は規制緩和で酒屋を潰していった政府の方だと思いますよ。
お酒との付き合い方のアドバイスをお願いします。昔は「一気飲み」を学生間で奨励するなどお酒の強いのを奨励する傾向がありました。また最近の宝酒造の調査では「交際相手はお酒の飲めるほうが良い」と回答した女性が60%いたそうです。その考え方を下司さんはどう思われますか?
赤岡町の「どろめ祭り」一気飲みが奨励されます。 知られていない舞台裏。すぐ吐かないと大量の飲酒は危険です。
お酒は良いものだ。という「教育」がなされています。お酒は「薬物」だという教育はされていません。そういうことが問題ですね。今では「一気飲み」であちらこちらの学生が亡くなったことで裁判になり、飲ました学生も教授も有罪判決が出ています。「酒の上のことだから許される」ということはなくなって来ました。
 一気飲みといえば、高知の赤岡町の「どろめ祭り」が有名ですね。優勝した人が酒で死んだ例もありますし、町の文化として未だに町を上げてやっているのは自分達は得意でも全国各地の人達にはひんしゅくを買っています。お酒に関しては少し控えめに、仲間と楽しく飲むように心がけていただきたいですね。
 ファッションとしてお酒のCMを見かけます。お酒は「薬物」だという認識が各人必要なのですね。

 お酒は合法的「ドラッグ」(薬物)であるというということを抜かりなく考えていただきたいですね。
酒の製造会社は新しい販路として女性と若年者に的を絞っています。フルーツ系の酒がジュースとわからないよう女性にうけのよいプリントで売られているのではけじめがつかなくて困ります。売る為のコマーシャルは増えていますからその収入を考えたらマスコミも批判的に報道しにくいでしょうね。みのもんたの番組が下司病院の取材に訪れる企画を持ち込んだことがありました。看護師さん達は生理的に反撥をしましたが、スポンサーの酒屋から横やりが入って没になりましたことを覚えています。
適度にお酒の飲める方がおつきあいしていても楽しいということはあるでしょう、ファッションとしてとらえればそうですが、お酒に泣いている女性が多いのも事実です。


 お酒には二十歳以上とか、飲酒運転をしない、無理強いをしない、二日酔いをしない
とかの約束事を守られてこそのいいお酒であると思います。
守れないようであれば問題飲酒者群だとの認識をまず持って頂きたいと思います。

第32回高知酒害サマースクールのお知らせ

今年は旧久里浜病院院長の丸山勝也医師を迎えて特別講演をいたします。演題「飲酒
と肝臓 断酒と肝臓」
シンポは「地域のアルコール対策」を考えて行きます。

広範な市民の理解を求めて、昨年より「断酒」を「酒害」と変えて一般の方も参加し
やすいものになっております。
昨年は市長さん等400名余りが参加、今年は知事さんの参加もあります。

今迄の山内会館が休館の為、高知商工会館で開催します。
広さは山内会館と同じ、下司病院すぐ東、本町一丁目水産会館の東隣です。
 
2004年7月18日(日曜日)10時〜15時
高知商工会館 高知市本町1-6-24 088-875-1171
空港連絡バス―はりまや橋バス停徒歩5分

主 催 高知アルコール問題研究所 下司孝麿所長
http://www.kochi-al.org E-mail : geshi@muse.ocn.ne.jp
連絡 高知市本町3-5-13 電話 088(823)3257 下司病院内