労働市場の変化について
 今週のゲストは、高知労働局職業安定部長の石井久さんです。今日のテーマは「労働市場の変化について」でお話を伺います。
 かつて日本は先進国のなかでも失業率が低く、雇用が安定していました。しかし昨今の国際競争の激化や、産業構造の変化で、雇用形態が激変したように思います。
 日本独特の終身雇用制度は、完全に崩壊したのでしょうか?
 崩壊していないと思います。むしろ、今後も残るものと思っています。学力に秀でた人たちが大企業に入社するという採用市場は変わらないからです。
 1月14日の新聞に「ソニー」が2006年度内定の大学生の新卒採用から、2008年3月末まで入社を延期できる制度を導入することにした、という記事がありました。
 これは海外留学後や研究活動などを継続してから入社したいと考える優秀な学生を確保することがねらいで、そうした優秀な人材を逃すまいとして、終身雇用制をとる可能性が強いと思います。
 こうした動きは他の大企業も考えるものと思いますが、少子化が進むなかで一握りの優秀な人材をめぐって、大企業間はもとより中小といわれる企業との、乱暴な言い方ですが、争奪戦はますます厳しくなっていくものと考えます。
 もちろん、そうして採用された人達も、採用された後、厳しく成果が問われるわけですし、また、会社は一社だけで日本経済を動かすことはありえず、その時々の国内の景況にも左右されますし、今もそして今後もいっそう世界経済から受ける影響が極めて強くなるのは明らかです。
 少々話しが飛躍的しますが、そういうもとでは、終身雇用制は掲げるとは思いますが、実際には、これまでのように定年まで同一会社で働けるというような終身雇用ではなくなるのではと考えています。
 16年版の労働白書でも述べられていますように、企業は長期雇用を基本的に維持しながら、賃金や処遇制度については年功的要素を縮小し、能力や成果を重視する方向に確実に雇用管理制度の変更を進めてきています。こうした動きが進むなかでは、民はもちろんのこと、私たち公務の部門も、そこで働く方の意欲と能力をいかに向上させるかが、今後ますます重要な課題となっていくのではないでしょうか。
 
 確かにまともに大学を卒業しても求人数が少なく、最初から派遣会社登録やパートタイマーとして働かざるを得ない若者が沢山います。これに対し、厚生労働省は何か手を打っているのでしょうか?

(高知労働局)

 大学生などの就職については、この1〜2年、就職率が上がってきていますが、一人一人の学生さんのご希望する職種、というより会社と、その会社が欲しい人材とが結びつかないこともあって、就職できないまま、就職しないまま卒業する学生が増えていることも事実です。
 その結果、定職に就かず、アルバイトなどで暮らすフリーターは、内閣府の推計で2001年には400万人を突破し、なお増加傾向が続いているとしています。また、NEET(ニート)と呼ばれる若年者も増加しています。
 平成16年版の労働経済白書の推計によれば、平成15年度約52万人と計上されております。なかでも深刻なのは、25〜34歳で32万人という若者が存在するということで、確実に年齢層が高くなってきている、ということです。

 昨年12月24日、関係5大臣による第7回若者自立・挑戦戦略会議が開催されまして、関係府省において「若者の自立・挑戦のためのアクションプラン」というものがとりまとめられました。
 これをうけまして、厚生労働省としても、「若者自立・挑戦プラン」に基づく施策を引き続き着実に実施することとし、平成17年度は新たに、働く意欲が不十分な若年者、ニートの増加などの課題に対応するために、「若者人間力強化プロジェクト」を推進することにしております。

 厚生労働省では、ハローワークとは別に、全国に学生職業センターや学生職業相談室を設置しております。
 高知では、はりまや町のデンテツターミナルビル3階に高知公共職業安定所の附属の施設として「高知学生職業相談室」を設置しています。
 帯屋町のダイエーショッパーズ地下にあります高知県の就職支援相談センターとしても「ジョブカフェこうち」とも連携をとりながら、学生などの若者に対し、就職の相談やカウンセリング、情報提供などを行っておりますので、お気軽にご利用願いたいと思います。

 中高年の失業不安と若者(24歳以下)の失業不安はどちらがよけいに深刻なのでしょうか?
ハローワークいの
ハローワーク高知
 
 どちらが深刻か、とのご質問ですが、中高年、若者などと分けて考えるものではないでしょう。
 前にも話しましたが、35歳未満の方々がこのままニートとかフリーターという状況が改善されなければ、その人個人はもちろんのこと、その方々は確実に年齢を重ねるわけですから、そうした無業者の方が中高年齢へと移行していくわけです。
 論理がかなり飛びますが、マクロには国の社会システム全体に大きな損失を及ぼすことは明らかでありまして、よく言われる経済成長率何%維持とか、国際競争力に勝つために何何をする、などという国の基本施策に大きな影響をあたえることになると思っています。
 いずれにいたしましても、経済のグローバル化が急速に進むなか、世界的にも例をみない速度で少子・高齢化が進むなど、日本の経済社会は大きな転換期を迎えてます。国民のライフスタイルや職業に対する意識も多様化してきており、これまでの雇用構造に大きな変化が起きはじめています。
 そこで、厚生労働省では、重点政策として、1)次世代の育成を支援する少子化対策の推進、2)新たな挑戦や再挑戦がしやすい労働市場の実現、3)人間力の向上を目指した人材育成の推進、4)多様な働き方を可能とする労働環境の整備、5)活力があり、安心できる高齢社会の実現、などを重点政策としています。
 日本の勤労者の年間総労働時間はどうなっていますか?また、他の先進国と比較してどうか?短縮傾向ですか、それとも伸びているのでしょうか?

 1999年に閣議決定された年間1800時間を目指して労働基準監督署が中心となって企業への指導を行ってきた結果、平成15年では、高知県は1813時間となっており、全国平均の1846時間を上回っています。
 しかしながら、景気の低迷から人員削減が続いており、残された労働者に残業時間の増加がみられ、短縮の幅が鈍化しています。
 一方、欧州の主要国では1980年代から短縮が進められており、年間1500時間前後で推移しているが、アメリカ、オーストラリアでは日本より長くなっています。
 サービス残業が増えているようですが、対処はされているのでしょうか?一方で若者の失業があり、一方で、過労気味でサービス残業。法的な処置が必要であると思いますが、いかがでしょうか?
 サービス残業の是正については、厚生労働省の重要課題になっており、全国の労働基準監督署が中心となって、啓発・是正指導に努めており、その結果については、その都度マスコミで報道されており、国民の関心事ともなっています。
 しかしながら、サービス残業は後を絶たない状況にあることから、今後も是正指導を強めていきたいと考えています。