「今どきの若者の表現力」です。
  今週のゲストは高知大学人文学部助教授の石筒覚さんです。今日のテーマは「今どきの若者の表現力」です。高知大学人文学部3回生の広末かおりさん、1回生の橋本若知(あきな)さんにも来ていただきました。
最近は大学生の学力低下がよく言われていますが、実際のところはどうなのでしょうか?若者の表現力はどう思われますか?
石筒 公のデータでは、過去と比較して、中高生の学力が低下したといわれています。
 ゆとり教育などの影響もあるかもしれません。漢字を書いたり、計算をしたりといった面では、能力が低下していることも確かでしょう。しかし、よく考えていただきたいのはこの点については、大人も一緒です。計算力もそうです。電卓を使用せず暗算で計算したことなど最近の大人もないと思いますね。
 私の実感では、若い人たちの能力は総合的に見ればそんなに落ちていない感じがします。以前の「物差し」で計ろうとすると、いろいろ落ちていることがあるかもしれませんが、その物差しには、インターネットやコンピュータ携帯電話の普及とその影響などは考慮されていないことが多いです。
パソコンは急速に普及しています 携帯電話は1人1台の時代に
weblogの講座の様子です。
携帯電話は1人1台の時代です。
 石筒さんは学生の日本語能力について、「国語力が低下したのではなく、表現方法が変化した」と言われています。どういうことなのでしょうか?インターネットや携帯電話の普及と関係はあるのでしょうか?
石筒 今の若い人たちの表現力や発想力については、低下しているとはそれほど思いません。情報機器が発達して、ワープロや計算機に慣れきってしまった私たちは、大人も含めて、漢字を書く能力や計算する力は以前と比較すると、落ちていると思います。かといって、とくに問題が起きていないのも事実です。企業間のやり取りを手書きの文書でやることはほとんどなくなりました。
 以前の教育現場では、一方的に教えられることが主で、プレゼンテーションをすることなどありませんでした。仮に、そのとき表現力を試したら、今よりも劣っていたかもしれません。結局「国語力とは、、日本語を使いこなす総合的な力」ですので、時代の変化に応じて、評価の仕方も見直す必要があると思います。
 高知大学人文学部では、「プレゼンテーションフェスタ」などが開催され、自己表現能力の向上に力を入れていると、以前番組に出演頂きました人文学部学生の宮脇綾子さん、津野裕子さんに伺いました。こうしたイベントも何か関連しているのでしょうか?

石筒 私たちは略して「プレフェス」と呼んでいますが、プレゼンテーションの技術を競うだけではありません。これは何か「伝えたいこと」を持っている学生が、一同に会して、それぞれの表現力や発想力を同じ土俵で競い合う場です。
 一般的にプレゼンテーションと聞くと、口の上手い人、しゃべりがうまい人が上手のように考えられがちですが、実は違います。結局のところ、話の中身、すなわち、「伝えたいこと」があるかないかです。これが一番重要なところです。いくら滑らかに話ができても、中身がないと、人には伝わりません。反対に、少々話が下手でも、自分が何を考えているのか考えていることがしっかりしていれば、伝わります。これはひじょうにシンプルです。


 表現力・技法・内容の3つの審査基準があります。持ち時間は10分間です。パワーポイントを使用したり、演劇をしたり詩を朗読したり様々です。朝の9時から夕方6時ごろまでします。中味を皆作りこんできますので、聞いている分はそれほど疲れません。一方的に情報を流すだけの垂れ流しプレゼンであれば耐えられないでしょう。
 審査員は9時間あまりをずっと座っていますが、疲れないようです。伝えたいことががどんどん来るのですね。それがプレゼンの本質ではないかと思います。

プレゼン・フェスタの様子です。いろんな形式の表現があるようです。
 
もともプレゼン・フェスタはどういう意図で、何年ぐらい前から始まったのでしょうか?
石筒 今年は2月にありました。今回で3回目です。もともとの経緯は、いろんな活動をしている学生がいたのですが、それを伝える場が少ないねというのがありました。なんとか「場」をつくろうということでした。機会をつくろうということだけは大学側でしましたが、今の形式に作り上げているのはすべて学生スタッフです。
実際にプレゼン・フェスタに出場された広末さんはいかがでしょうか?

広末 わたしは友人と2人で参加したんですけれど、自分の欠点、コンプレックスと向き合うということでやってきました。

わたしは多くの人がそうでしょうが、自分の欠点と「向き合っているようで、向き合っていない」ことで目をそらしてしまいますね。わたしも自分の欠点から目をそらしてきました。今回は友人から見たわたしの欠点を指摘したもらいました。そのことで自分で自分の欠点と向かい合うことが出来ました。


 それをプレゼン・フェスタの場で、多くの人に聞いてもらうこと、感想などをいただくことで、自分の伝えたいことを他人に伝えることがとても大切であることがわかりました。

 今の若い人が「コミュニケーション力があるとか、ないとか」言われています。それはわれわれ大人にも言われていることです。大変難しいことですね。コミュニケーションギャップ、世代間ギャップなどと言われています。それを「埋める」方法としてプレゼンテーション・フェスタはあるのでしょうか?
石筒 もともとの経緯はそういうことよりも「伝えたいことがあるが、伝える場所がない。そういう場がたくさん必要。ということでした。ないのなら学生スタッフを集め、好きなようにこしらえたらというのがもともとのいきさつでした。
 かなり伝えたいことがいることがやってみてわかりました。
出場者のグループですが、どれくらいですか?どれくらいの規模なのでしょううか?
石筒 今年は23グループありました。個人の場合やグループもありました。
朝の9時から夕方6時まで、延々とあります。
石筒覚さん
審査員も大変ではないですか
石筒 当初やった時は大変だろうなと思いました。ずっと座っていますので。でも「伝えたいこと」がありますので、審査委員全員が全然疲れないよと言うことですね。楽しめたということです。
 日本人はプレゼンテーション能力が低いと言われています。どうすれば、プレゼンテーション能力は向上するのでしょうか。
石筒 上手なプレゼンテーションとは、わたしは「伝えたいことを適確に伝えられることだ」と思います。日本人がプレゼンテーションが上手くないと言われていますのは、「伝えたいことが何かわからない」ことが多いからです。それでは伝わりません。考えていることがしっかりしていれば、必ず相手に伝わります。実にプレゼンテーションはシンプルなのです。
 プレゼンはあくまで「コミュニケーションの手段」の1つです。だから、プレゼンそのもの 能力を向上させることは、そのプロにでもなるつもりでないかぎり、過度にエネルギーを注ぐ必要はないと思っています。それよりも、さきほど広末さんが言われたように、感じたことを伝えたい、何を伝えたいのかを徹底的に考えることの方がより重要です。
毎週金曜にははりまや橋サロンが開かれています。

最近あらたな自己表現の道具としてweblogが注目されています。写真は2004年1月23日のはりまや橋サロンの様子。

写真でパソコン画面を覗き込んでいる人全員がその後weblogを作成し、頻繁に更新されています。