国家プロジェクトで得られたもの
今週のゲストは前高知市長の松尾徹人さんです。松尾さんは、昭和44年に東京大法学部を卒業し、自治省(現総務省)入省しました。昭和56年から通算6年5カ月、県保健環境部長、総務部長などを歴任。自治省選挙課長を経て平成6年3月退職。同10月高知市長初当選。3期目途中の15年10月に辞職されました。
 自治省に入庁直後に「沖縄交通方法の変更」などの国家プロジェクトにも関与されています。自治体での業務内容とは、国のプロジェクトはどう異なるのでしょうか?
沖縄の日本返還は1972年(昭和47年)です。交通システムの変更は大変だったと思われます。担当者としての苦労はどうだったのでしょうか?
 
まず交通事故を起さないという認識を関係各人が、しっかり頭に入れておくと言うことですね。道路についても右から左に交通方法が変更になりますと、道路改良も必要になります。それから右左の変更で、ガソリンスタンドや釣り道具屋などで、売り上げが異なります。そんなことで訴訟が起きたりしまして大変でした。
 沖縄の本土返還が1972年ですから、5年以内に「交通方法の変更実施」という国家プロジェクトでした。実際には昭和53年(1978年)7月30日に実施するものでした。私たちは「730」と呼んでいました。
 このために大変な経費もかかりました。バスもドアの位置が違うのですべて取り替えました。一般車両もハンドルとか、ライトの位置などの変更などもありました。
 大きな混乱もなく、実施できましたのは沖縄県民のみなさまの協力があったからでした。

ご多忙のなか高知シティFMに収録に来ていただきました。

国家プロジェクトや県政や市政での危機管理についても、よどみなく説明をいただきました。

大阪伊丹空港の存続に奔走されたようにも伺っています。それは今になっても良かったといえることなのでしょうか?
伊丹空港は騒音問題が昔からありました。訴訟があったりしました。関西国際空港が出来る際、国内線も含めてすべて移転し、伊丹は廃止する話もありました。ところが関西空港ができるまでにかなり時間がかかりました。航空需要も増加しましたし、航空機も改良され低騒音型の旅客機も開発されました。そんなこともありまして、運輸省の方針展開で、伊丹空港を国内線専用空港として残していただきたい。という折衝を地元の住民の皆様といたしました。
 当時私は自治省から運輸省に出向いたしていました。その責任者として地元対策を任されていました。当時は行政不信が地元があり大変でした。汗をかき、地元へ入り、信頼関係をこしらえました。無事に伊丹空港は残りました。
また松尾さんが、関わられた大きな国家プロジェクトと言いますと、選挙制度の改革ですね。平成6年にいわゆる「政治改革に関する法案」が成立しまして今年は10年目です。
当時松尾さんは、小選挙区比例代表並列制など、選挙制度の改革にも奔走されたと伺いました。調整作業はなにが一番大変なのでしょうか?政治家との接触でしょうか?地方自治体なのでしょうか?住民なのでしょうか?また10年間で政治改革は達成されたのでしょうか?ご感想も含めてお願いします。

私は国の仕事のなかで一番苦労したのが「政治改革法案」でした。もともとはリクルート事件がありました。「政治とお金」の問題をもっときちんとしようではないかということで、選挙や政治にお金がかかると言うことを改めようというのが事の発端です。
特に衆議院の選挙では1つの選挙区で数人の議員を選ぶ制度でした。それを小選挙区制にしまして、1つの選挙区で1人の議員を選ぶことにすれば、同じ政党の議員同士で争うことがなくなります。つまり「個人中心の選挙から、政党中心、政策中心の選挙に変えて行く」ことでお金のかからない選挙になるだろうと。そういう発想のなかで「小選挙区比例代表並立制」という制度が考案されました。


 当時は世界に前例はありませんでした。小選挙区制度だけ(米国と英国など)や、比例代表制(フランスなど欧州議会)はありましたが、両方を組み合わせることにしました。「民意を反映させ、お金もかけない」という欲張った制度ではありました。日本方式ですね。それが政治改革のメインテーマでした。
その後10年経ちました。本当にお金をかけない選挙になったかと言いますと、過渡期であると思います。また小選挙区制度になりますと基本的には「2大政党」を狙っているわけです。比例代表を組み合わせているので、その他の政党もはいってきます。「緩やかな多党制」になりました。政党の離合集散が繰り返されていますので、政界再編が未だに安定しないという現実があります。
 また小選挙区制度ですが、人口が変更しますので、区割りを変更しなければなりあせん。政治家の皆さんには大変です。また重複立候補がありまして、小選挙区で落選しても、比例代表で当選して議員になるという奇妙な制度ですが、現実にはドイツなどでもあります。
 これらについても理解は得られていません。私は選挙制度については完璧なものはないと思います。そのつどより良いものとしてリニュアルしていくしかないと思います