自民党の新憲法草案について(その1)
 
 今週のゲストは、高知県県議会議員であり、自民党高知県支部連合会政務調査会長である中西哲(さとし)さんです。
 今日のテーマは「自民党の憲法改正草案について」お話をお聞きします。自民党は1955年の結党以来、日本国憲法の改正を党是としてきました。結党50年の昨年、「新憲法改正草案」を提出いたしました。
 それは「憲法第9条2項」の改正が主体なのでしょうか?
現日本国憲法は、第2章「戦争の放棄」と定義していまして「前項の目的を達するため、陸海軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は。これを認めないとなっています。」
 自民党の「新憲法草案」では、第2章が「戦争の放棄」が「安全保障」になっていあいます。2項は削除となっています。その理由はどのよなところにあるのでしょうか?

 9条の解釈について説明いたします。


 まず現在の日本国憲法制定時の国際情勢と歴史的背景からお話するのが一番わかりやすいと思います。日本が軍隊を持つかどうかがポイントになっています。

1)憲法成立時(昭和21年)は第2次世界大戦という人類史上未曾有の世界大戦を経験し、世界中が二度と戦争を起こさないという機運がありました。「エルベ川の握手」と言いまして、ドイツ国内でアメリカ軍とソ連軍が握手をしまして、「もう2度と戦争はやるまい」という機運が全体にありました。この時点ではまだ、共産主義陣営の台頭による東西冷戦の構図もありませんでした。

中西哲さん
2)しかし、昭和25年6月に朝鮮戦争(昭和28年7月休戦協定)が勃発するとアメリカの対日政策は急角度の転回をみせ、日本の再軍備の必要からマッカーサーによって警察予備隊設置の指令が出され、日本側はこれに応じて昭和26年8月に警察予備隊法を成立させました。警察予備隊が出来ました。
 翌昭和26年にはサンフランシスコで講和条約及び日米安全保障条約が締結されました。昭和27年に、講和条約が効力を発生し、日本が独立すると、同年10月には警察予備隊が増強されて保安隊が設けられました。さらに昭和29年6月には保安隊が増強されて自衛隊となりました。


3)この前後にアメリカと共産主義との対立という国際情勢の変化がありました。それでアメリカは日本に憲法を改正して軍隊の設置を何回も要望しました。当時の吉田茂首相はこれには全く応じませんでした。吉田首相自身の軍隊嫌い(戦時中、外交官として戦争反対・講和に動いたので軍部に拘束された)経験もありました。


 結果的に日本の戦後復興には軍備に財政を使うより経済復興に全力を尽くすべきだとの吉田首相の判断があり、これが日本の予想以上に早い経済復興につながったものと思っています。

(サンフランシスコ講和条約調印の様子です。サインをしていますのは吉田茂首相です。)

 この当時成立しました。憲法9条の解釈を説明いたします。
[憲法9条の解釈]
1)清宮四郎・元東北大学教授(有斐閣法律学全集・憲法T新版)の見解が代表的な見解です。今でも憲法学者の間ではこの見解が主力になっています。

2)「(憲法前文)この憲法で、きわめて徹底した戦争の放棄・軍備の撤廃という、世界史上画期的なくわだてを敢えてしました。それは、単に国をあげての大戦争に敗れ、ポツダム宣言を受諾した結果、やむをえないものと認めたからではない。冷静に過去の行為を反省すると共に、国家・人類の将来進むべき道を考察してみた場合、そこにおのずから恒久平和の念願が湧きいで、また、人間相互の関係を支配する崇高な理想―友愛・協和―を深く自覚するにいたったからである。
 そうして、このような自覚と念願にもとづき、みずからさきがけて、非常な決意のもとに、あらゆる戦争を放棄し、いっさいの戦力を保持しないことにした。その結果、自国の安全と生存を諸国民の公正と信義にゆだねることになるが、それは覚悟のうえである。」というのである。
(107ページ)
 代表的な清宮先生の見解です。現在の憲法解釈の主張です。私はこの憲法が成立したとき、今でもこの憲法の解釈が通説(多数説)と思っています。
3)以下資料参照

4)憲法学者の判断は、自衛隊は違憲であるという意見が多数説です。、但し、裁判所は統治行為として違憲かどうか判断しない判例が多い。

日本国憲法の公布記念式典の様子です。
5)但し、政治家の憲法解釈は別です。当時の衆議院憲法改正案委員会の芦田均委員長(後に総理にもなりました。)はいわゆる芦田修正について昭和32年に以下の見解を述べています。
 「私は第9条2項が原案のままで我が国の防衛力を奪う結果となることを憂慮いたしたのであります。それかといって、GHQはどんな形をもってしても戦力の保持を認めるという意向がないと判断しておりました。・・・・(憲法9条2項に)『前項の目的を達するため』という辞句を挿入することによって、原案(マッカーサー原案)では無条件に戦力を保有しないとあったものが、一定の条件の下に武力を持たないということになります。日本は無条件に戦力を捨てるものではないということは明白であります。」(昭和32年12月5日内閣憲法調査会第7回総会の口述)と発言しています。
 この言葉を入れたことによりまして、つまり、(憲法9条2項の)『前項の目的を達するため』を第1項の『国際紛争を解決する手段としては』と関連させることで、戦力の不保持も『国際紛争を解決する手段として』の戦争を放棄するという目的のためのみのものであり、自衛のためであれば戦力の保持も認められると解釈している。というのが当時の芦田均委員長の見解です。
 
6)以来、自民党・政府は、自衛隊は軍隊ではないと言ってまいりました。
 しかし普通に考えまして、今の自衛隊の戦力ですが、一機100億円以上もするF15戦闘機を200機以上も装備している空軍は米軍以外にはないし、イージス艦(1250億円)という最新鋭のミサイル護衛艦を4隻も装備している海軍も米軍以外にはない。自衛隊は世界で一流の装備を持つ軍隊であります。
 しかし自衛隊は軍隊ではないと言うことで、今はあまり使われてはいませんが、昔は戦車を特車と言っていました。戦闘攻撃機は対地支援戦闘機、強襲揚陸艦(おおすみ。排水量1万トン)を輸送艦と呼んだりしていました。いびつな呼び方をしているのが現状です。、
海上自衛隊の艦艇です。
1995年の阪神大震災での自衛隊は活躍しました。
7)「軍隊ではない自衛隊」ですので、いびつな形で育っています。ですので、その装備は軍隊に必要な自己完結戦力がないという意味で、いびつである。
 例えば、海上自衛隊には護衛艦、潜水艦はあっても空母はありません。護衛艦隊(第1群〜第4群。横須賀、佐世保、舞鶴、呉)は米空母を護衛することを前提に編成されています。今日本にはキティフォークという米空母が配備されています。1隻の空母が出撃するにあたっては、11隻の艦艇も出撃します。攻撃型潜水艦2隻、高速戦闘支援艦、状況によっては8隻前後のミサイル護衛艦もついていきます。(海上自衛隊の1個護衛艦隊群は8隻の護衛艦で構成されていますので)これで肩代わりできると軍事評論家は言っています。
 また、航空自衛隊に戦闘機や戦闘攻撃機はあっても長距離を飛べる爆撃機はありません。ここ1〜2年で、F15に空中給油機能を復活装備し、それに伴い空中給油機を装備する事が決まりました。さらに、今年はじめてF4ファントム戦闘機の爆撃機能を復活装備し、グアム島で爆撃訓練を行いました。
8) 自衛隊を国軍にしようという背景ですが、平成2年の湾岸戦争がありました。湾岸戦争で日本は多国籍軍に対して130億ドル(当時のレートで1兆5千億円)を拠出しながら「血を流さない」とクエートなどから非難を浴びました。これが日本が世界に貢献するにはどういう方法があるかという議論の取っ掛かりとなり、湾岸戦争終結後海上自衛隊をペルシャ湾の機雷掃海に派遣することになりました。
 ここらあたりから国際貢献として自衛隊を通常の軍隊として認める必要がある議論が出てきました。
9)さらに、平成13年9月11日にイスラム過激派によるニューヨークの世界貿易センタービル爆破テロ以降、政府はテロ組織に対抗するための自衛隊の協力は憲法違反ではないとの判断を下し、自衛隊の海外派遣を認めるテロ特措法の制定に繋がりました。現在イラクに自衛隊は派遣されています。

中西哲さんの私見です。

1)テロ組織撲滅のための日本の協力は国際貢献に寄与するものであり積極的に日本も協力をすべきである。

2)しかし、現憲法下では自衛隊(軍隊)の存在は認められておらず、ましてや、たとえテロ対策という国際貢献であっても日本の軍隊の海外派遣は認められないと考えています。。

3)国際貢献として日本の軍隊を海外に派遣するならば現憲法を改正した上で行うべきであると考えます。

 しかし現実的に憲法改正ともなりますと、時間的にもかかります。国際社会から国際貢献を求められました場合、イラクへの自衛隊の派遣は、「イラク特措法」は政治的な解釈の元で、しているのではないかと判断しています。

参考 自民党新憲法制定推進会議       http://www.jimin.jp/jimin/shin_kenpou/index.html