中国人の意識をどう理解すべきなのか
 今週のゲストは高知大学人文学部助教授の蕭紅燕(ショウコウエン)さんです。今日のテーマは「中国人の意識をどう理解すべきなのか?」です。
 最近中国では反日運動が激しくなり、日本大使館や日本企業が襲われ、被害を受ける事態になりました。国際社会からの非難もあり最近中国政府も取り締まりに力を入れ、事態は沈静化したようです。でも根が深いのではないでしょうか?
やはりアジアの近代史をふりかえる必要があるのではないでしょうか?中国は清朝末期に欧米諸国に侵略され、中国人は屈辱的な思いを味わいました。上海では「犬と中国人はいるべからず」の立て札が外国人租界に立てられていました。欧米に対抗しなければという意識が強くあるのでしょうか?

 専門家ではありませんので、あくまで自分の感想を申し上げます。日中関係はあまりうまくいっていませんね。その根はアヘン戦争以来からの歴史によるものです。
 アヘン戦争「1804年)は中国の近代化の幕開けと言われています。アジアの近代史を振り返る必要は大いにありますね。今年大学でアドバンスト講義を担当しています。
蕭紅燕(ショウコウエン)さん
 あまり得意ではありませんが、これをきっかけに歴史を勉強しようと考えました。中国の大学で使われている教科書を使いまして、「中国近代史と日本」を取り上げています。アヘン戦争以来西洋列強と並んで中国を含めたアジアを侵略した日本の姿がそこにあります。
 中国では抗日戦争勝利60周年を今年迎えます。しかし近代における中日関係を史を考える場合、アヘン戦争の頃の東アジアの歴史に遡るべきですね。

 日本は歴史教科書で「フビライの来襲」をきちんと教えていますね。原爆などもそうです。つまり被害者としての歴史は数百年経っても忘れないのに、加害者としての歴史、みずからアジア諸国に侵した罪の部分はいとも簡単に水に流そうとするのです。

 でも若い人たちはまともです。授業で取り上げる史実をちゃんと見つめています。

 それは蕭先生がご指摘のように日本に対してはアジア人でありながら、中国より先に近代化に成功しながらも、欧米諸国と一緒になって中国を侵略した歴史が強い反感を持っているのではないでしょうか?
 それはあると思います。近代中国はイギリスを始め欧米諸国に侵略されました。アヘン戦争からですね。中国日本とはある意味では師弟関係、兄弟関係にありました。ところが同じアジアの国でありながら日本は先に手を打たなければ自分が侵略され存続できない立場にあったかもしれません。それでもアジアの国々を裏切って、また師であった中国に報いるどころか、侵略し資源を奪ってまで近代化を推し進めたということは、成功した部分はあるでしょうが、抵抗を感じざるを得ません。
 二次大戦の敗戦後日本は他国を侵略したり、軍事行動をとっていません。近隣諸国との友好を継続しています。日本は軍国主義の国ではありません。そのあたりの評価を中国の人たちは何故しないのでしょうか?
高知大学朝倉キャンパス。人文学部や教育学部がある。
 

 平和を維持するために戦後やってきたことを日本人は誇りに思われるかもしれませんが、実は軍国主義の根は日本に根付いています。
 例えば岸信介という人。A級戦犯の容疑者でした。でも彼はGHQにより保釈され、後に総理大臣にまでなりました。それから、先ごろのイラク戦争もそうでしたが、日本はアメリカに追随して出兵しましたね。
 また日本は「戦争景気」の恩恵を受けてきました。朝鮮戦争もベトナム戦争でもそうでした。北朝鮮と韓国の関係も同じ民族でありながら、全く違う扱いをしています。今でもそうです。それは「平和を尊ぶ」イメージからは程遠いでしょう。

 更にかつての琉球ー沖縄の人々からみれば、戦後日本は、真に東アジアの平和維持に貢献しているのか。はなはだ疑問に思われるでしょう。沖縄の米軍基地の問題はその典型的なものですね。

 二次大戦敗戦後の日本の社会について「民主国家である」という教育は正しく中国でされているのでしょうか?街頭で騒いでいる青少年は本当の日本の姿が理解していないのではないでしょうか?
 わたしは1986年3月に留学生として日本へ来ました。「近代化に成功した資本主義の国」「資本主義の自由な国のイメージ」がありました。ところが来日してみると日本は民主国家にはほど遠い存在だということがわかってきたのです。
 日本社会の場合6割程度は統制経済とのこと。それで納得しました。日本に長く住めば住むほど、日本の「社会主義的」なやり方にあきれかえっています。
 日本はまぎれもなく「社会主義国」です。ここで断っておかなければならないのは、社会主義はすべて悪いのではありません。社会主義の理想は大変素晴らしい。また利点も少なくありません。しかし現代日本では、かつて「悪平等」に苦しんでいた中国の人々はここで否応なしにもう一度もっとひどい体験をさせられるわけです。
 今は中国の方が遥かに競争社会です。ぬるま湯では決してありません。街頭で騒いでいる青少年はそういう意味でたぶん本当の日本の姿は理解していないと思います。
 日本と中国が、仲良く善隣友好関係を続けるためには、市民としてどのように考え、行動すればよいと思われますか?
 1中国人としても、1日本人としても出来ることはたくさんありますよ。友人が言うには日本のマスコミの報道は「まるで怪物」のようだと。その論調にはどっと疲れを感じると東京にいる日経新聞の友人は言います。
 私が想うには、マスコミの報道を鵜呑みにせず、「行間を読む」という姿勢を身に着けることですね。
 人のいいなりに決してならないこと。それが1人1人に出来ることです。
 メディア(テレビ。ラジオ。新聞)にものすごい影響力があります。確かに事実を伝えてはいますが、日本の場合「事実の一部しか伝えていない」場合が多い。
 さきほど蕭さんが言われていました「行間を読む」ということは、報道されていない裏になにがあるのか。何故このような報道の仕方になるのか。という情報源を多元化しないと駄目だということなのですね。
 そうですね。インターネットが得意ではないものですから、中国のホームページも見ていません。でも去年1年間中国の西蔵(チベット)で暮らしてみました。現地では沢山の新聞や雑誌に触れることが出来、ラジオ番組もひじょうに面白かったです。
 日本に関する報道は大変面白いものがありました。人民日報系の「環球時報」があります。月、水,金と週3回出ていますが、毎回のように日本に関する記事が掲載されています。非常に多面的な記事内容でした。
蕭ゼミ一期生と飛び入り参加者
土佐地域文化研究会終了後、人文学部棟中庭での記念撮影

 いろんな事件や話題などを多面的に取り上げているのですね。

 今は少し下火になっていますが、「日本の国連安保理ー常任理事国入り」問題などについても、いろんな角度からの記事があって面白いですね。日本へ帰ってきますと、「浦島太郎状態」で情報の無さに唖然としてしまいます。
 主な新聞も世界を見る目が欠落しているように思います。
 日本人は「みんな自由にいろんな考え方を持っているんですよ」と言う人がいますが、私らから見ると全然そうは思いません。今のマスコミもそうですね。マスメディアは誰かにコントロールされ、報道姿勢も何だかすっかり牛耳られている気さえします。


 たとえば大学入試の時に1枚の紙を渡されます。「個人の思想信条に関わる問題を質問するな」。など試験官に対する細かい注意書きが紙にぎっしりと書いてありますよ。

 ところで人文系にとっては、果たして当たり障りのないような話題でよいのでしょうか?現に口頭試験に臨んだ受験生が、結構現実的な社会問題や国際問題を取り上げてくれますから、避けて通るようなことではないんです。だから、注意書きを渡された試験管をそのつどはらはらさせているわけですよ。

 すごくその話をききますと「統制的」ですね。

 たとえば「靖国神社の存在は沖縄を始め、アジア諸国の人たちにそのような影響がありますか?」と問題を出すとしますよね。採点の評価は靖国神社を評価する答えであっても減点するつもりはないのに、出題者が注意をされてしまう有様です。

 日本は民主国家だと思っていましたがそうではないようですね。
 はい、残念ながら本家のアメリカも民主国家ではありません。黒人の権利は無視されているし、またアジア人も差別されています。どんなに努力してもです。
*写真は蕭さんより提供いただきました。解説もです。