高知県農業のあるべき姿とは?
 今週のゲストは杉本久典さんです。杉本さんは農業関係の技術者で高知県庁に勤務されています。今日のテーマは「高知県農業のあるべき姿とは?」でお話を伺います。
 最近でこそ、有機野菜や、減農薬野菜に消費者の関心が高まっています。中国からも野菜は輸入され、かつての園芸王国であった高知の農業のありかたも変化があるのでしょうか?
農薬を使用しない方法として、害虫の天敵を利用することなど、環境に負荷をかけないやり方が注目されているようなのですが?高知でも行われていますか?

 最初に私の仕事の話をさせていただきます。私は高知県庁の病害虫防除所に勤務しています。ここは農作物の病気とか虫とかの発生状況を調べて、それに基づいた防除の対策を農家の皆さんや、JAの皆さんに情報を流しています。そういう関連で今日は話をさせていただきます。


 天敵の活用ですが、高知県で広まっています。ここ数年、よく行われるようになってきてます。
 冬場のハウスではトマトやナスが受粉して実が大きくなるのが難しいので、植物ホルモン剤を花に噴霧して実を大きくします。このようなホルモン剤も農薬として位置づけられてます。


 この、ホルモン剤のかわりに、ミツバチやマルハナバチというハチをハウスに入れて受粉作業をしてもらうという技術があります。そういう技術も高知県では天敵の活用とともに広がっています。

杉本久典さん
 それから、殺虫剤のかわりに害虫を食べる天敵生物をハウスに放して害虫をやっつけるという技術もあります。どちらも、一般的な化学的に合成された農薬ではなくて、生き物によってそのかわりをさすわけですから、生産された野菜に残っている農薬などの成分は少なく、また、周辺環境への影響も少ないということで注目されています。
 そして、その技術の普及率は高知は日本一、それもぶっちぎりの一番と言ってよいと思います。
 高知の野菜園芸は冬場の暖かい気候を生かしたハウス栽培です。有名なのはナスです。そのメインになるナスで天敵を利用しているハウスの割合はナスで40%、ピーマンでは70%、シシトウでは50%になってます。
 マルハナバチなどの訪花昆虫はナスでは70%、トマトでは90%の導入率です。こんな野菜産地は国内どこにもありません。
 天敵などの利用は少数派ではありません。活用を積極的にしている野菜産地は、全国どこへ行ってもありません。
 この天敵などの利用技術は専門的には、IPM(inteqrated pest managemaent)、日本語では「総合的病害虫管理」と呼ばれる技術のなかのひとつです。高知で今取り組み、成果をあげつあるのはこのIPM技術の導入なんです。
天敵の利用による害虫の退治。
放花昆虫も積極的に活用されています。
 IPM(総合的病害虫管理には、いろんなとらえ方、考え方があるのですが)、「化学農薬だけにたよるのではなく、いろんな方法を組み合わせて総合的に病害虫、雑草から農作物を最低限守る」ための農業技術」だといえます。
 もともと地球上になかった化学合成農薬をまくのではなく、防虫網をハウスにはって害虫の侵入を防いだり、病気に強い品種を植えたり、そして天敵を利用して害虫から作物をまもる技術は代表的な例です。
 この技術は同時に環境に対してやさしい技術とも言えます。ただ、天敵や訪花昆虫の中には外国産のものもありますから、在来の虫たちへの影響については常に監視がしていかなければなりません。

 IPMという考え方は、実は目新しいものではないのです。理論はともかく、実用的な技術として確立されたものはあまりありませんでした。
 ところが昭和40年代に高知県でこれに取り組んだ先輩たちがいました。水稲の害虫マグロヨコバイ野菜の害虫はハスモンヨトウや防除対策をIPMの考え方で成功させてます。
 僕は農学部の学生たっだ時、この話を知り、それらの研究をやっていた桐谷圭治さんや山中久明さんといった方々にあこがれて高知県庁に入ったわけです。今、現場でハウスの天敵利用に取り組んでいる若い県職員やJAの指導員さんたちはたぶん知らないと思いますが、そんな歴史があります。
 しかし、その後は低毒性の、と言ってもあくまでその時点での分析評価技術での話しなのですが、農薬が次々と開発されたこともあって、化学合成農薬万能の時代が続くことになります。

 「農業は決して環境に優しい産業ではありません」から、国レベルでも環境保全型農業の推進ということが叫ばれだします。
 私は平成7年から県庁の本課にいたのですが、ちょうど、農薬の使いすぎによる事故が続き、また、環境ホルモン、ダイオキシン問題などがあり食の安全ということに消費者も含めて大変関心が集まり出しました。また同時にその頃の問題では、「農薬の使いすぎ」によって、ひじょうに優秀であった農薬が効かない事態が沢山出てきました。Aという農薬があるからそればかり使います。効かなくなります。それでBという農薬を使います。また効かなくなります。そういういたちごっこがずっと続いて来ました。
 問題解決のためには農薬だけに頼らない技術(IPM)を施設野菜でやりたいと思っていました。当時あまり関心のない現場の職員さんにこれやろ、やろと言って、天敵や訪花昆虫の導入試験予算を配ってましたね。
 その時、本気で取り組みだしたのが、今、天敵利用の中心になってる安芸の農業振興センターの担当さんたちでした。彼らとJAさん、もちろん農家の方々を巻き込んで導入をはかっていきました。結構面白いドラマもいろいろあったようです。NHKのプロジェクトXに取り上げられてもおかしくないように思います。
 無農薬野菜を専業で栽培されている南国市の農家井上正雄さん。20年来のお付き合いです。井上さんは「農薬漬けの野菜栽培には補助金が出るのに、身体のために良い無農薬有機栽培の野菜を栽培している私達には今までなんの支援もなかった」と嘆かれていました。事態は改善されているのでしょうか?
 いわゆる化学合成農薬、化学肥料を減らして、環境に対する負荷をできるだけ減らしましょうという農業の推進については、たとえば、農業技術センターなどの試験研究機関では前にもお話したようにずっとそういう視点で研究をやってきていました。
 平成8年には窪川町に環境保全型畑作振興センターを設置して研究機関で開発された技術の実証展示や研修などを行っています。それまではスローガンを掲げて、概念のみで旗を振るだけだったのですが、このころから、実際に人と金を投入して取り組み始めてます。

 無農薬と言うことではないのですが、県では平成12年から新たにこの天敵導入に取り組もうというJA、農家さんに対して補助金を出していました。合計すると2600万円くらいのになります。事業費ベースだと6000万円です。
 失敗するかもしれない、新しい技術。事実失敗したケースもたくさんあったのですが、そういう新しい技術が短期間に確立され定着していった意味には有効な補助だったと思います。これは一定の成果があがったという判断で16年度を最後にうちきられました。

 

高知県本山町で有機農法で野菜を栽培されている山下農園。契約栽培で販売先を確保されているようです。
 また、17年度からは井上さんのような有機農業を実践する人たちを育成しようとう目的で県とNPO法人(嶺北地区)が協力しながら「有機農業の学校」を立ち上げることになってます。まだまだ、具体的なところへ行かなくて解決しなければならない問題も多いようです。ずっと「無駄な農薬はやめようよ」と言い続けてきた人間としては、大事にしていきたい取り組みだと思っています。
 ですので、技術開発を除けば、今まで直接的に高知県はあまり無農薬や有機栽培にお手伝いは出来ていませんでした。
 せいぜい県認証制度等によって、販売のお手伝いくらいしかしてなかったものが、より具体的な支援を行うようにかわってきていると思います。
関連のサイトのご紹介
高知県病害虫防除所HP       http://www.nogyo.tosa.net-kochi.gr.jp/byoki/boujosho/
高知県農業技術センターHP  
                      http://www.nogyo.tosa.net-kochi.gr.jp/kikan/kenkyu/se/home/

天敵導入に最初から取り組まれていた芸西村のハウス農家さんたちのHPです。オランダの報告をしています。てつ&としは県職員で天敵導入作戦の中心でした。

                     http://www3.inforyoma.or.jp/geisei/
天敵導入の中心人物の個人HP、天敵の写真が多数見られます。
                     http://www5c.biglobe.ne.jp/~nk-okaba/
高知県の出先、安芸普及所、天敵のタイリクヒメカメムシやマルハナバチの写真があります。
                       http://www.nogyo.tosa.net-kochi.gr.jp/kikan/aki/index.htm
 
高知県農業関係のホームページ。環境保全型農業に就いての解説もあります。
                     http://www.nogyo.tosa.net-kochi.gr.jp/kanpo/kanponogyo/