地産地食と地産地植について
 今週のゲストは杉本久典さんです。杉本さんは農業関係の技術者で高知県庁に勤務されています。今日のテーマは「地産地食と地産地植について」でお話を伺います。
 最近高知県では「地産地消」という言葉が使用されています。主に地元農産物を地元の学校給食などで使用しようという運動のようです。農業関係者と教育関係者の取り組みのようですが、杉本さんの使われている言葉は少し違っているようです。

「地産地食」はその言葉どうりなのでしょうか?単純に地元で採れた野菜や農産物を地元で料理などに使って食べることなのでしょうか?伝統料理などとも関係があるのでしょうか?

 「地産地消」という言葉は概念は特に新しいものではなく、特に農業関係者の間では普通に使われたきた言葉です。地元のものを地元で消費する、一昔前なら当たり前のことです。高知の日曜市がよい例ですよね。最近は観光化されて来たといわれていますが。
また、ずいぶん前からJAの婦人部などが良心市、直販所を設置して、地域の人たちに喜ばれています。


 一方で生活スタイルの変化、流通システムの発達で小売の中心は量販店に移ってきていています。ここでは、地元の直販所のように生産者の人と顔を合わすこともない。だんだん食を通じた地元とのつながりが希薄なってきています。
 食はただの栄養補給源、おなかが膨れればよいだけのものになっていったように思います。人間生活において一番大事な食に関する関心の低さがBSE問題のような形で噴出してきのだと思います。

日曜市
 地産地消のキーワードは物理的、心理的に遠くなってしまった消費者と生産者の距離を近づける、俗に言う、「顔の見える関係」を取り戻すことだと思います。その中に、小さな頃から、健康的に暮らしていくために食に関する必要な知識、意識を植え付けようと食育教育の重要性が言われ、学校給食に地元農産物をという取り組みがされています。
 僕は地消ではなくて食べる「地食」という言葉を当てましたが、それほど深い意味があるわけではありません。ただ、地産地消がすこしブームみたいになって、そんな宣伝文句に惑わされて、決して地元産とはいえないのではないかみたいなものが、直販所にならんでいます。
 本当に地元産では品数が少ないので、他のところから仕入れるというのは結構あるみたいで、もちろん、ちゃんとそのことは表示してますが、直販所へせっかく買いに来た方の人からしますと、少しがっかりですよね。
 それなら、高知は結構田舎ですので一歩進めて、可能な人は自分で作って自分で食べようとうことを言いたかったわけです。ヨーロッパでは「市民農園」というのはごく普通になってます。
 また、ロシアでは多くの都市生活者が郊外にセカンドハウスと農地を持っていて、ダーチャと呼ばれています。例えば、冬場に使うジャガイモは全部自分で作るというようなことが普通に行われているということを聞きました。週末には農家になってシーズンにはほとんどの週末をこのダーチャで過ごす。年金生活の人はこちらで過ごすことの多い人も結構いるそうです。もちろん、社会制度もちがっていますから、すぐまねできるわけではないでしょう。
 僕自身非農家の出身ですし、今は、とても無理なんですが、将来はぜひそんな暮らしをしたいと思っています。あとでお話ししたいと思っているスローライフにもつながっていくと思います。
イタリアで発生した「スローフード」運動があります。最近高知でも支部が出来ました。その運動などとは関係があるのでしょうか?「地産地食」は関係あるのでしょうか?
 「地産地食」というのは以前から、地産地消をわかりやすく説明するために使われてきたりしていて、特に区別する必要もないと思います。スローフードも同じような意味合いだと思って良いと思います。
 スローフード協会の国際本部はイタリアの田舎にあります。スローフード運動始まりは15年ほど前にローマにマクドナルドのイタリア1号店ができたとき、のちにスローフード協会の会長となるカルロ・ぺトリーニ氏が仲間たちと食卓を囲んでいたとき、ファーストフードの弊害、成人病の増加、切れる子供たち等等・・・。
 なにより、食いしんぼうの彼らが心配しましたのは、皆がファーストフードを食べるようになりますと、伝統的なワインやチーズの小規模な生産者たちが消えていくと言うようなことが話題にのぼりました。ファーストフードの反対の言葉として、だれからともなく口にしたのが「スローフード」という言葉だったと聞いています。
ファーストフードの一つ大手チェーンのハンバーガー
郷土料理もスローフードと言えます。
 スローフード・高知はこのスローフード協会国際本部、スローフードインターナショナルと日本の組織を統轄するスローフード・ジャパンの支部として今年2月に発足しました。
 現在の会員は50数名で、レストランのシェフ、農業関係の技術者、大学の先生、お寺の住職さんなどバラエティーに富んだメンバーで結成されています。。

主な活動として

1)作り手が消えつつある質のよい食品や郷土料理を支援し守ること

2)考えるによい・食べるによい食材を提供してくれる小さな生産者を支援し、まもること。

3)子供たちを含め消費者全体に、食品の品質や味覚の知識を普及すること。

4)食と生活が一体となった地域景観を提案して、それを支援することをあげています。

 私のイメージとしましては、里山ですね。農業の生産地と住む場所がすぐ近くにあってお互い交流が出来るような。そういうことを提案して支援しましょうと言うことです。
具体的な活動はこれからなんですが、当面はまず会員の確保、高知の伝統食品、作物などのリストアップ、農園の開設などが予定されてます。

例えば、イタリアのスローフード協会では、試食会の他に、各地から会員が集めたスローフードな食材を2年に1度、一堂に集めたプロモーションを行っています。ふだんは広告費などかけられないほど小さく、しかし優秀な生産者にも国際舞台を用意し、海外からの出店者には旅費の援助をしたりしています。
 また、毎年、夏の1週間を『味の週間』と呼んで普段はお金もなく立ち食いのピッツァやハンバーガーばかり食べている若者に、一流の店の料理を半額くらいで食べられる機会をつくったりもしています。

 「地産地植」ということを杉本さんは言われています。専門家の立場で「高知で育苗した野菜苗を地元高知で植えよう」とのことのようです。現実はどうなっているので
しょうか?また杉本さんの意見に農業者の反応はどうなのでしょうか?
 この苗作りはすごく大事で大変な農作業なのですが、ハウス農家さんは夏の一時期は農作業から少し解放されたい、あるいはできたものを 買った方がリスクも少ないなどの理由で、県内外の育苗業者から苗を購入するケースが増えています。よい面もたくさんあるのですが、この購入苗の増加で困っているのが、苗について県外からやってくる害虫やウイルスなどの病害虫の増加です。
 正確なデータではないですが、園芸連さんの話によりますと、高知のハウス野菜の60%ぐらいは購入した苗を使用しています。自給率は40%、で、日本の食料自給率のようなものですね。昔のような自家育苗に戻ればよいという単純な問題ではないと思います。
 高知では最近、1年間に3〜4つ程度、今まで発生していなかった野菜の病害虫が新たに発生(つまり侵入です)しています。これらの多くが県外からの購入苗にくっついてやって来たと思われます。一度発生すると、今度は県内育苗業者の苗でも広がっていきます。状況証拠だけでものを言ってはいけないでしょうが、これを疑う関係者はいないと思ってます。
 県外から苗を入れない。そして、育苗は冬場のハウス野菜がなくて、病害虫の発生が少ない中山間部でやる。この二つでほぼ解決です。高知でなくても山間部はあるし、農薬などで徹底的に防除したらというご意見もあるでしょうが初日にお話ししたように、できるだけ無駄な農薬は使用しないでIPM(総合的病害虫管理)を推進し、食の安全性を確保して園芸王国土佐の復活させたいなら「地産地植」が重要だと思ってす。「苗も自分のところで作り、自分のところで植える」ことが大事です。数年前までは誰も聞いてくれませんでした。今は「そうやね。やらないかんね。」という人が増えました。
有機農園で栽培した野菜は、地元のレストランにて消費されているようです。
関連ホームページです。
市民農園(農林水産省のサイトより)             http://www.maff.go.jp/nouson/chiiki/simin_noen/top.htm
ニッポン東京スローフード協会                  http://www.nt-slowfood.org/
高知県地産地消のホームページ                http://www.pref.kochi.jp/~chisan/index.htm