親日感情は右肩下がりなのか?
 
 今週のゲストはフリージャーナリストの安田純平さんです。
 今日は安田純平さんに講演会の後スタジオに来て頂きました。また「安田純平さんを高知へ招く会」代表の松尾美絵さんと、スタッフの堀川友さんにもスタジオ収録に来て頂きました。

 昨年11月6日の「安田純平さんイラク現地報告会」からほぼ1年経過いたしました。その間の日本社会の変化は大変なものがありました。先般もイラクの外相や首相が日本を訪れ、「借金の棒引き」に来られているのでしょうか。むしろ日本側が「招待」しているのでしょうか。

 講演で安田さんが言い残したことも含め、お話を伺いたいと思います。
 たしかに言われていますと「あ、そうか」とも思えます。アメリカのブッシュ大統領が来日した直後にイラク政府の首相が日本へ来ました。それはなんかあるな。ということも指摘されませんとなかなか考えられません。
 講演の中でも言われていましたが、報道の洪水の中で、「報道されないこと」なども含めてレクチャーを受けてみたいと言うのが、趣旨です。
 私が担当しています「けんちゃんのどこでもコミュニティ」と言う番組は、月曜から金曜日の朝8時15分から8時半の「ドライバーゾーン」に放送されています。普段の番組では前後半4分半程度のトークと、リクエスト曲を入れますが、今回は「特別番組」でそれはいたしません。
 質問に長めに答えられますと、それで1日分終わりの可能性もあります。メリハリのあるやりとりを目指したいと思います。
 それで今回はずっと通して収録しまして、時間配分を考えまして編集し、放送いたします。
 まず安田純平さんに伺います。今日の講演会ですが、いろいろ提案もされていました。イラクやイラクの周辺諸国へも訪問されたのですが、日本人のアラブ社会や中東社会の信用や信頼は右肩下がりで低下しているのでしょうか?
 1年前イラクに行かれた時と、今とではどうなのでしょうか?

安田 そうですね。今現在はアメリカについてくる国という具合に、基本的に、イラクの問題を考える場合は、アメリカに日本はついていく形になっています。そういう位置づけになっています。


 それまでは、日本に対する親しみや親日感情は非常に強かったです。反米感情の一環ですが、「ヒロシマ」「ナガサキ」の被害に逢いながらも素晴らしい車を作る国。科学技術も発展している日本は、目標とする国でありました。


 現地では評判の良くないアメリカと言う国を支援している国なんだということにイラクに人たちは気がついてしましました。

安田純平さん
 アメリカなんですが、イラクで何故嫌われているのでしょうか?
安田 米軍による掃討作戦でイラク市民に相当の犠牲者が出ているということです。今現在の掃討作戦は、武装組織なのか、そうでない人間なのか区別がつかずに行われています。それまで抵抗していたのではない人たちまでが、参加してくる。言うような悪循環が出ています。
 電気、水を含めて復興事業がイラクではまるで進んでいません。戦争前より電力の供給が不安定であり、足らない状態です。配給も行われていません。
 戦争前と比べまして、いいところはなにもない。そういわれています。そのなかで米軍による武力での被害に遭っている人達にとりましては、かなり厳しい評価をされています。
松尾 安田さんがイラクで取材をされている、あるいは周辺諸国で取材をされている時も、アメリカのスパイという疑いを持たれるのでしょうか? 松尾美絵さん

安田 そうですね。昨年4月にイラクで拘束されたときも完全にアメリカのスパイ、もしくは日本のスパイを思われていました。
 米軍によって掃討作戦が行われているところで、地元の人達が自ら抵抗したわけで、そういう人たちから見れば、アメリカのスパイかもしれないという見方をされますね。それは周辺国でも同じような見られる恐れがあります。実際私はシリアあたりからはそういう風に見られているような可能性がかなり高いと感じています。
 かつて日本は、イランーイラク戦争のときなどは、両国と友好関係を結んでいました。経済的な交流関係もありました。当時からアメリカはイランとは断交していました。
 イランーイラク戦争の時は、当時の安部晋太郎外務大臣は両国の仲裁役をかって出ました。ひじょうに中東地域の平和のために貢献していました。それがここへ来まして急激にアメリカよりになったのは、何がきっかけなのか。国内にいましてもさっぱりわからないのですが・・。
 安田さんから見られてどのような時期から日本は変ったと思われますか?
安田 湾岸戦争(1991年)時はイラク周辺の中東諸国も含めて対イラク攻撃を支持していましたので、まだ理解できます。今回の戦争ほどの転回点ではないと思います。
 小泉政権になりまして、「9・11」じゃないですかね。
 「9・11」でアメリカ自体もかなり変りました。空港の入国検査も厳しくなりましたし、それから指紋を取ったり、アメリカは「夢の国」ではなくなりました。と言う話を日本とアメリカを往復している人からも聞きました。猜疑心の塊になったアメリカに引きづられるかたちで日本も変質したのでしょうか?
安田 それをうまく利用しているのでしょう。法案として出ています共謀罪などもそうでしょう。
 1990年代以降はアメリカの意向に沿った日本国内の「改革」と言っているものは、ずっと続いて来てるというのは、あります。そのなかで「9・11」は表に表れ、わかりやすく現れた事件でありました。
堀川 情報を受け取る側が、あまりの現場の複雑さと言うか、難しさに圧倒されてしまうということで、もっとわかりやすい報道や内容を好むことによって、報道する側もよりわかりやすく単純化したものをせざるを得ないのでしょうか?
 そのほうが受けがいいのかどうか知りませんが。してしまいますね。
堀川友さn
安田 それはそうでしょうね。双方で相乗効果でそうなっていくのでしょう。間違いないでしょう。メディアの側としてどういうものを提供すれば反応しやすいか。というのはもちろん研究しながらやっていると思います。
 メデイァの側からの働きかけが強いと思います。朝の忙しい時にとか、夕方仕事を終えて帰った時とかに、難しい話は聞くのは嫌だと言う気分はあると思います。
 戦争となりますと、日本に居ましても結構興奮して見るものですね。という時に複雑な解説よりも、激しい映像があったほうが気分的には見てしまいます。映画みたいに。そういうものも踏まえてどうしてもそういう映像を撮らせるわけですね。
 そうすれば受けがいい。ということで、報道する側も流します。求めてそういう方向に来ています。
 戦争が始まりますと、よくテレビなどに{軍事評論家」という人達が登場してきます。「この兵器はこういう破壊力がある」とか「このミサイルはどうした」という詳しい解説をされます。普段は一体何をしているのか不明です。あの人たちはどういう存在なのでしょうか?何故あれほど兵器について詳しいのでしょうか?
安田 軍事が好きで、しょうがない人たちですよね。戦争が良い悪いではなくて、軍事について色々調べている人いたちです。どんな兵器があって、どんな使い方をしているのか。戦略、戦術で使われているのかとかに詳しい方々です。
 それはすごく大事な情報であると私は思います。もし戦争の被害に焦点を当てるにしましても、どんな状況で、どんな兵器が使われたか。そういうところを知らなければ、被害の実態もわかりませんし。戦争がどんな状態にあるのか。それを考える上でも、兵器や戦術、戦略は知っておくべきですね。
 そういう話を聞いたうえですね。昨年の安田さんの講演のなかでクラスター爆弾のお話がありました。空中で爆弾が破裂し、小さな爆弾が飛び散ります。さらにその小さな爆弾が破裂し、鋭利な金属などが何百メートル四方に飛んで人々の体を傷つけます。
 クラスター爆弾、テレビで解説かなんかをしていました。実際の被害がどうなのかは兵器の解説をしていました。生身の人間がどうなったかは、安田さんが現地の病院などに行かれて写真等撮影されておられました。それでよくわかりました。
 さきほど堀川君の質問で、戦術的な感覚、ゲーム的な感覚でそれをやられてしまいますと、人間の痛みなどに感心を持たないのではないか。と彼は心配していると思います。
 
安田 報道の中味として、戦術や兵器の解説ばかりになりますと、外から見ている報道にしかなりません。地図の上で線をひっぱりまして、ここでこういうものを使っている。
ゲームのように見えてしまいます。でも兵器が使用された現場ではどうなったのか?という全く別の視点が必要なのです。いかにいろんな視点をそこに出せるかということです。報道の質だと思います。
松尾 私も思いますのは、アメリカの作戦という意図に沿いまして、そういう軍事や軍備の説明をされています。私は、ではそこで使用されたことで、被害を受けた人々のほうから見た実態などは殆ど報道されません。
 映画やゲームのごとく作戦というような、人を殺すことを淡々とされていく。今の現実は恐ろしいことであると思います。

収録のときの安田純平さんと松尾美絵さん。

講演会終了直後に高知シティFMに来られ、そのまま収録いたしました。講演では聞き漏らした事柄など、詳しく安田さんは説明いただきました。

堀川 その恐ろしさがなんていうのが、極端に言えば薄まっている。そこに恐怖を感じなくなることが一番怖い部分があります。
松尾 そうです。
 安田さんにお伺いします。イラクのファルージャなどで残虐行為が行われた。大量破壊兵器が使用された。化学兵器を米軍が使用したかもしれない。なかなか報道管制しているのか表へは出てきません。
 出たとしましても痛みを市民が感じる感覚がないというか、客観性がないからわからない。米軍が凄いことしているんだけれどもそれが伝わらない。それはどうしてなのでしょうか?どのようなところにあるのでしょうか?
安田 報道管制によりまして表へ出てこないことは例としてはあります。今はインターネットなどでもかなり現地からは流れて来ます。見ようと思えば見れますし、それを拾って雑誌などにも書いています。
 自分で探せばあります。それが広がらないのは遠い国であるイラクであるし。日本政府やアメリカ政府によると殺されているのはテロリストだ。人が死んだと言ってもどんな人かわからないし。
 という覚めた感覚の人もかなりいるのだろうなと思います。
堀川 受けての人が歩み寄るという前に出ることで得られるものもあるのではないかと思いますけれども・・。
安田 受け手の側が前へ出ると、提供する側がちゃんとしたものを提供しないといけない訳です。私は提供する側の人間なので、受け手のほうがちゃんと受けないといけないということを言ってはいけないのですね。
 営業マンのようなもので、営業マンが「この商品はわからない。お客さんが悪いのですよ。」とは言えませんよね。こちらとしては仕事を含めて、感心を持ってない人にも感心を持ってもらいたいと言う材料をしっかり提供することが仕事です。
 完全にこちらの問題として考えなくてはならないのですが、同時に受け手でもあるので世界中で戦争をしています。イラクに限らず。そういうこともあるのかと流している自分が受け手としてあります。それまでの自分の経験を踏まえて考えますと・・

安田純平さんの著作です。

 

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4877982124/qid=1136090539/sr=1-2/ref=sr_1_10_2/249-0070513-8312307