アメリカ社会の変化について
 
今週のゲストは、アメリカ生活事情に詳しい安岡正博さんです。安岡正博さんは、高知市出身で、高校卒業後単身渡米、いくつかの職歴を経て、アメリカのビジネスを会得されました。また高知と、アメリカを年に数回往復されています。アメリカの事情にも、高知の事情にも詳しい安岡さんにお話を伺います。今年はアメリカ社会はどのような変化になると予想されますか?
今年は、「過去に例のないような変化が訪れる」年ではないでしょうか。
安岡さんご自身はどういう年にしたいのでしょうか?抱負や計画されていることがありましたら、お願いします。安岡さんご自身の今年のテーマはどのようになっていますか?
 
いろいろとあります。私事ですが、人間生まれ、いろいろ体験を積んで生きています。物を失うことなど。去年ですが物を失ったことの悲しさを後になって気が付く悲しさを味わいました。今年は希望をもてる年、歳もとったので「パラダイスを探す」1年にしたいと考えています。わたしのサブジェクトは「パラダイス」ですね。
パラダイスですか。安岡さんは高知の事情も詳しいし、アメリカでの生活も長いし。どちらかに定住されるのでしょうか?そうではないところにパラダイスを求めるのでしょうか?
そうではないですね。30年以上アメリカで生活しています。アメリカも最近変わりましたね。住みやすいところ、面白いところではなくなりましたね。世知辛くなってしまいましたね。日本は30年以上留守にしていたので、もはや生まれ故郷ではない。なじめないところがありますね。難しいところへ差し掛かってきましたね。
それは俗に言う「アメリカンドリーム」がなくなったのでしょうか?また「ジャパニーズ。土佐ドリーム」もないということでしょうか?
ないですね。どっちかで持とうと思いませんね。一度他所の文化に触れてしまいますと自分の文化はさほど大事ではないですね。誰かの話ではありませんが、流れ着くところが自分の故郷であれば良いし、別のところで気に入ったところがあって定着すればそこが自分の土地であり、社会でありますね。だからアメリカでも日本でもない第3国で「パラダイス」を探さなければならないのです。
マリナデルレイ ロサンゼルス市
ハワイの海岸
昔ゴーギャンというフランスの画家は、タヒチで長いこと生活していましたけれども。
ある程度年取ると。山か海かに向かいますね。どっか良い場所があるかどうか、今から探さなければいけませんね。なかなか重たいテーマではありますね。
安岡さんの奥様はアメリカの方ですね。奥様のご意見はいかがでしたでしょうか?
彼女も同じ意見ですね。高知にも住んで18年です。高知にもアメリカにも執着していないようですし。
安岡さんの考え方は、最近のアメリカ人一般の考え方に近いのでしょうか?
アナポリス市のマリーナにて
近いですね。というのもアメリカは皆が自分の居場所を探していますね。アメリカ社会自体がそうではないでしょうか。そんな気がしますね。
アメリカ人が定住したい都市は、以前安岡さんに聞きましたら、サンフランシスコとかが人気がありました。今は変わったのでしょうか?
昔は西海岸のサンフランシスコとか、シアトルは人気がありましたが、最近はそうでもないらしいですね。今は模索し始めたアメリカですね。
それはリタイヤ生活を計画されているということなのでしょうか?
リタイヤといういわゆる「定年退職者」とか「年金生活者」といわれる日本のそれとは、意味が違います。いろんな体験を積んできますと、このままじっと死んでいくのは嫌だなと思いましたね。「最後のあがき」があっても良いかなと。われわれがいわいる「老齢社会」の人間だからですね。これから50歳、60歳に向かう人間もたくさんいるわけですね。その人間達に僕が提唱したいのは、、「もう一回あがけるぞ」という社会的にも自分の夢を探しながら、どっかやらなければいけないと思います。昔なら庭で花でもつくりながらことことという生活も考えられました。もうこれからはそういう社会ではないのではないか。もっと「攻撃的」に生きていく、そんな人生をもう一度探さなければいけないのではないかと思いますね。そういう意味で「パラダイス」という言葉を使いました。
具体的には、50歳から準備をされて、55歳からリタイヤ生活に入られるのでしょうか?人生プランにおいては、アメリカ人はそのように計画されているということを以前に安岡さんに聞いたことがありましたが。
自分自身もそれを頭にいれて今日までやってきたつもりです。アメリカ社会というのは成熟した熟年層からの人生を大事にしますね。アメリカの場合は家族は育って皆出ていくものだという考えがあります。日本はそうではないですね。親子2世代で住むとか。親の面倒を見るとかバックグランドがありますね。それがアメリカにはないですね。アメリカ人は歳がとってから自分の行き方を探すのが上手いわけですね。日本では孫中心の世界になったりしていますね。アメリカは趣味で自分のやりたいことをやることに長けていますね。そういう意味で日本とアメリカの社会事情は異なっています。
みんな計画しています。50〜55歳ぐらいで。60歳では遅いと思いますね。
既に50歳くらいからリタイヤ生活の計画作りが具体化しないといけないわけですね。
いや40歳代に計画を立て、50歳で一応めどを立て(経済的に)、55歳からその世界に入ります。こういう考えがアメリカでは一般的ですね。
それから質問の観点を変えます。アメリカ社会の変化で一番大きいと思われますのは2001年の「9・11連続テロ」だと思います。現地で感じられた変化はどのようなものであったのでしょうか?
1988年に安岡さんの特別な計らいで、ニューヨーク市の世界貿易センタービル107階の展望レストランで飲食した記憶があります。あの高層建築物が崩壊した衝撃は、大変なものだと想像できます。市民の意識は立ち直りつつあるのでしょうか?
世界貿易センター前で説明する安岡正博さん
美しいツインタワー(1988年)フェリーより撮影
そうですね。「9・11テロ」は計り知れない衝撃でしたね。アメリカ人がこれほど傷ついたこともありませんでしたし。もともとアメリカは南北戦争以来自国が戦場になったことはありません。朝鮮半島やベトナムへ出て行って戦争をした、ある意味「傲慢な」国であったわけですね。それがこれほどまでに衝撃を受けたのは、日本にいてテレビで見た印象とは違うでしょう。計り知れないショックでありました。
当然ニューヨークはアメリカ経済の中心地ですね。そのニューヨークのマンハッタンに聳え立つワールドトレードセンターはアメリカのシンボルでした。ウォール街も程近いし。そのシンボルであるツインタワーが崩壊した衝撃は計り知れません。
ワールドトレードセンター跡は大きな穴があいていますね。巨大なビルで経済の集積地でありました。現場に立つとわかりますね。
アメリカ人の衝撃は計り知れないということがわかりました。だからその後のアフガニスタンのタリバンへの攻撃、イラク戦争などは、議会も含めて賛成して迅速に実行したのですね。
その心情はわからないわけではないですね。
ということはアメリカのいいところ「アメリカンドリーム」はなくなってしまったということなのでしょうか?
なくなりました。もう元へは戻れません。変質しました。良きアメリカはどこにもなくなりました。そんな時代に入ったのが今年ではないかと思いますね。
 ただ唖然とする衝撃は、メディアの報道ではわかりません。今や世界で一番自由で個人主義のアメリカが超保守的になってしまいました。ペンタゴンに飛行機が突っ込む。ホワイトハウスまで狙われた。現場にいけなければわからない事実があります。アメリカの精神的な豊かさ、余裕が全然なくなりました。今のアメリカはせこくなりました。
 自由を謳歌していた国の行き着くところはアメリカなのだと思いますと気が重くなります。でもあの現場へ行きますと納得できる現実の重さですね。非常にアメリカは怖い方向に向かっています。
 昔はアメリカは行くと癒されるアメリカでしたが、今はアメリカへ行きますと疲れます。指導者層も大衆も右往左往しています。ソ連が崩壊し、冷戦後はアメリカは磐石かと思われたが今やどうなっているのだという混乱がありますね。
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