地方自治体での体験の総括
今週のゲストは前高知市長の松尾徹人さんです。今日のテーマは「地方自治体での体験の総括」でお話を伺います。松尾さんは旧自治省時代に国家プロジェクトに関わりがありました。一方で地方の県庁に出向され、県庁の重要なプロジェクトなどにも関わられています。
 高知県庁にも通産5年6ヶ月出向されていました。国の事業と、地方自治体の事業は異なります。そのあたりはどうなのでしょうか?
松尾さんは滋賀県庁に出向時代に、滋賀県独自の文化行政を推進されたように伺っています。具体的にはどういう事業だったのでしょうか?またその政策は現在も推進されているのでしょうか?
だいぶ前の話です。昭和51年ごろでした。当時の滋賀県知事は武村正義さんでした。後で新党さきがけの党首や大蔵大臣をされた方です。当時40歳で全国最年少知事でした。武村さんは文化行政に造詣が深く、文化に対する関心が高い人でした。「文化振興」を掲げて独立の課をこしらえました。何をやるかと言いますと、行政全般に文化的な視線を入れていこうではないかという発想でした。行政の各分野に通ずる「横断的な理念」として文化を位置づけをいたしました。
 行政全般に文化的な発想を入れる。「センスのある行政」「粋な行政」「人間味のある行政」を行いました。かなり理念的ではありましたが。キャッチフレーズは「行政に文化の屋根を」でした。行政全般に網を被せるようにいたしました。
 滋賀県には琵琶湖と言う湖があります。湖と文化の関わり。環境と湖との関わりなど環境行政でも先進的な役割をはたされました。文化ゾーンと地域の文化施設との連携プレーなどを実施いたしました。
高知県庁 本庁舎
高知県庁でも保健環境部長時代に重要な局面に関与されていました。国内で初めてエイズに感染された女性が出産される出来事が高知でありました。松尾さんは担当部長として、当時どの様な配慮をされましたか?個人のプラーバシーや正しい知識の普及などはどうでしたか?
 昭和62年の話でした。エイズに感染した女性が出産を控えるという高知県が全国ニュースになる事態になりました。まずその時に私はその女性のプライバシーを守るとことを最大の課題にさせていただきました。そのためにはマスコミの窓口を1本化することでした。
すべて私が取材を受けることにしました。プライバシーを守るためには、私がプライバシーを知らないことが一番重要ではないかと思いました。私自身はその女性の名前も所在も知らせてくれるなと部下に話しをしました。私はその女性の名前を知りません。知らないことで個人のプライバシーを守ることが出来たのです。
 また「災い転じて、福となす」という考え方で当時エイズ対策では先進的な県になったと思います。危機管理ということが言われますが、当時としては大変な事件ではありましたが、ハッピーエンドに終わりました。子供にはエイズが移っていませんでした。良い結末であったと思います。
総務部長時代の出来事についてお伺いいたします。
また高知学芸高校の中国への修学旅行が列車事故に中国上海で遭遇しました。
中国当局との補償交渉は大変だったと思いました。また遺族の対策はどうだったのでしょうか?またその過程により、高知県が得られたものは何でしたか?
当時私は総務部長でした。私学につきましては、教育委員会ではなく総務部が担当していました。そんなことで私が窓口になり、中国側との交渉や、遺族との対応をさせていただきました。特に中国との関係は、お国柄の違いと言いいますか、救援体制も日本国内と異なっていました。ただ中国側も子供たちの事故と言うことで誠心誠意で努力いただきました。結果的には遺族のかたも、満足とはいきませんけれども、補償交渉を含めて理解をいただきました。
補償交渉の相手の方が大変な人格者でございました。孔子の70何代目の方でした。ただ子供さんを亡くされたご遺族の皆様の悲しみと怒りは、その立場になってみないと決して理解できない面もありました。本当に厳しい局面がたくさんありました。命の尊さをそのことを痛感した事故でありました。
国家プロジェクトに関わられた松尾さんです。また地方自治体での重要な局面を体験された松尾さんです。国と地方自治体のありかたは、どうあるべきであると思われますか?国と地方は「対立」するように言われていますが、そうなのでしょうか?国の三位一体改革は、元在籍された中央省庁が推進しています。それについて両方の(国と地方自治体)経験をされた松尾さんはどう思われますか?また私たちはどのように考えたらよろしいのでしょうか?
今回の三位一体改革の方針は、「地方切捨て」としか言えません。一番問題なのは地方交付金の減少です。財務省側考え方に対し、地方自治体は抵抗すべきだと思います。また総務省が財務省に「寄り切られている」と思います。私も非常に歯がゆい思いをしています。やはり言うべきことはこれから地方公共団体は持つべきだと思います。
 国と地方は基本的に対等協力言われていますが、国が制度をいじる立場にあります。それだけに地方の立場実情を強く国に要請する場面は、これからもあると思います。