エンジニアとしての技術・研究・産業について
 
 今週のゲストは高知工科大学電子・光システム工学科助教授の野中弘二さんです。今日のテーマは「 エンジニアとしての技術・研究・産業について」です。今まで学問的課題や、大学の課題などをお聞きしました。
野中さん以前民間企業にも在籍されていたそうなのですが、どのような技術開発をされていたのでしょうか?
光通信のもとになる半導体レーザーの性能を向上させて、それを使ってより早い光ファイバー通信の方式を考える研究をしていました。
研究者のお立場でお訪ねします。最近「青色発光ダイオードの特許権訴訟で、研究者に日亜化学工業は200億円支払いを命じる」判決が出されました。この判決やいきさつについてどう思われますか?
まず青色lED自身は商品としては素晴らしいものです。それで会社が数百億円儲かっているのも事実です。ものになるかどうかわからない段階で、10億近くの投資をした企業の勇気もたいしたものだと思います。私自身は思っています。恵まれた環境ではないところで1人で研究をしたという感覚は、東京の人達の「偏見」ではないかと思います。ただそれでも突破口を開いた発明者の1人に対しては、しかるべき貢献は必要ではないかと思っています。
貢献なのですが。どうしても研究のことがわからない者はお金の話になりがちです。それは野中さんが「光」の研究をされていまして、産業界に評価され「億万長者」になれると可能性もあるということなのですね
私が研究していました半導体レーザーを例にとりますと、数百の発明の塊として、ひとつの半導体レーザーがありました。1人の発明の貢献が50%あるとします。残りの研究者は、「俺の研究部分はなんだったんだ」という空しさを感じさせるのではないでしょうか。むしろ心配しています。わたし自身も半導体レーザーを開発しましたが、自分の発明の部分で、いっぱいお金をよこせ、と強気にはなれません。
発明した人は、ノーベル賞をもらいますね。それに値する発明をしたからなのでしょうか?
ノーベル賞をいただいた人を日本人は無条件に尊敬します。その時に、その基金となる資金を提供したノーベルという人を意識している人はどれだけいるのでしょうか?
ノーベルはダイナマイトを発明し、それ自身大変な発明で凄いことです。ダイナマイトの発明で彼が儲けたことによって、彼が尊敬されているわけではありません。やはりやったことが大事です。たとえばバスケットのマイケル・ジョーダンが40億円毎年もらっています。それは40億円もらったいたから尊敬されていたわけではありません。「40億円に値する」プレーを続けていたからみんなの目標になったいたのですね。
エンジニアの環境はアメリカのほうが日本より良いのでしょうか?
既にスターになった技術者にとってはアメリカのほうが良い思います。やはり世界中から優秀な魅力的な人材が集まりますので、それが刺激になってどんどん研究が進みます。
アメリカンドリームということが言われた時代がありました。以前この番組で登場された安岡正博さんは「アメリカドリームはもう終わった」と言い切りました。技術者の世界ではまだしっかりと存在しているのでしょうか?
アイデアやソフトにアメリカ社会がきっちりお金を払うのは契約社会だからですね。クリエイティブな仕事をしても黙っていれば報酬が得られるものではありません。
例えは適切ではないかと思いますが、野球でも日本で実績のあった野茂やイチロー、松井などが大リークに挑戦し成果をあげました。研究者の世界もそういうのであると考えてよろしいのでしょうか。
そういう部分もありますが、アメリカは契約社会ですので、きちんと契約をしていませんと駄目です、クリエイティブなことをしたから天からお金が降ってくるかといえばそうではありません。たとえばデザインの話で言いますと、あのナイキのロゴデザインなどは、最初に買取契約であったがために、あれだけ世界的なイメージ向上に役立っていますのに、最初に僅か百数十ドルの買取料しか支払われていません。それ以後は一銭も貰えなかったという事例をアメリカの友人から聞いています。だからそのあたりのきっちりした契約を、めんどくさらずにやる人ではないと駄目ですね。

契約の知識もないと研究者としてなければ、アメリカ社会の中で、研究者として通用しないことになりますね。

そのあたりは日本社会は「性善説」になっていまして、私は「契約」のことでごちごちやるのはあまり好きではありません。
これがよく訴訟問題になったりしますね。
日本はかつて「技術大国」と言われていました。最近はどうなのでしょうか?日本とアメリカを比較され、何が優れなにが遅れていると思われますか?
日本は今でもエレクトロニクス分野では技術大国です。しかし確実に技術を継承する意欲のある若い人達の数が減少しています。比率も減少しています。20年後はどうなるかわかりません。よーいどんでなに「か零からわかりきっていること」を設計させたら、今でも日本のエンジニアはアジアの優秀なエンジニアに負けるかもしれません。
日本の強みはもうひとつあります。保有する技術以外に「顧客の好奇心」があります。
貴重な技術資源だと言えます。新しいものに好奇心を持ち最高品質を求めることを要求する「うるさがたの消費者」の存在です。日本がクリエイティブなものを生み出す「生命線」なのです。このへんは先進国でありましても保守的な気風のところとは、日本はアドバンテージがあると思います。
たとえば3Dのカーナビとか、今の携帯電話というのは、日本ならではのイノベーションではないかと思いますね。
野中さんは外国で研究されたほうが良いと思われていますか?日本のほうが良いと思われていますか?
外国か日本かということは、あまり考えてはいません。研究環境が最も良いところを選んで前の会社や、高知工科大学に来たわけではありません。自分にとって居心地の良い場所を見つけて、そこで精一杯頑張ってみたいと思っています。高知にいるのも自然に魅了されてきたのもあります。
高知に来られて何年になりますか?
4年になります。結構忙しくて、高知の素晴らしい自然を満喫する時間があまりないのが残念ですね。
研究者にとっては高知の環境はいかがなのでしょうか?
高知の場合は自分がアイデアを出したい人は多いですが、なかなかそれを「応援したい」というのはお互い軋轢があるような部分を感じています。
研究者の立場では、似たようなライバルの存在は重要です。たくさん集まる場所は、日本においては東京です。世界においてはロサンゼルスからサンフランシスコの間のあたりですね。アメリカ教育制度が素晴らしいのではなくて、あそこに優秀な人達が群れ集まることが素晴らしいのです。
やはり試合をしにくいような道場が必要なのですね。それはたまにいく行く程度で、研究環境が整っていれば、場所にはこだわらないのでしょうか。
わたしは何年も東京には居たくはありません
そこにいますと人間的に疲弊してしまうからでしょうか?
 
そうですね。