医療を通じた社会の問題について
 今週のゲストは、医療法人共生会理事、下司病院事務管理部長下司孝之さんです。
今日のテーマは「医療を通じた社会の問題について」です。
 下司さんが勤務されている下司病院は、内科、精神科、心療内科を診療しています。またデイケアもされています。医療機関は人間の命と心に関わる仕事をされています。医療保険制度がたびたび改正され、患者の自己負担率が上昇しました。よほど症状がひどくならないと受診しない患者が増加しているやに聞きましたが、本当なのでしょうか?
 やはり感じますね。
 消費税でも3%から5%へあがるだけでだんだん財布に効いています、医療費が10%あがって3割負担はきついです。患者さんもお薬も安いのにしてくれとなりますし、処方箋を貰っても、実際に薬を調剤薬局に行っていない方も居ましたね。現場では防衛策として長期投与となります。30日とか、薬によっては90日処方の方も居ます。待ち時間は少なくなって助かる面は有りますが。
 下司病院の場合にはアルコール依存症の患者様が多くて、長期の生活習慣病ですから経済的に困っている方が多く、深刻です。福祉を受けられる方も多くなりましたね。精神科の病名で外来公費負担があり、5%の支払で住む制
度がありますが、今では皆さんこの手続きをします。昔は仕事に差し支えるとか、娘が嫁にいけなくなるとこだわっていた制度ですが、だんだん病気への理解が得られたことと、この不況でしょう、取得する方が大多数になりました。
下司病院全景
全日本断酒連盟発祥の地の記念碑があります。
生活習慣病についてはどうなのでしょうか?若者層にも食生活の影響か出てきているやに聞いていますが。その傾向はあらわれてきているのでしょうか?
生活習慣病の一つでもあるアルコールの問題は決して一部の国民の問題ではないことはお話した通りです。生活のすべてにわたって問題が出ます。職場にも、社会にもです。家族(1人の酒害者に奥さんと子供2人としまして)を入れると、酒害者が240万人ですから、日本では1000万人を巻き込み、酒害による経済活動の損害も莫大なものです。それは酒税2兆円を遥かにしのぐ6兆円以上にもなります。(東京医科歯科大学のデータ)それに加えて健康を害し、死に至る病だから経済損失がなくてもいいわけはありません。
 アルコール問題に取組む中から、食べる方の喫食障害、過食や拒食の問題にも眼がいくようにもなりました。戦後の何もない時代には考えられなかった病気で、食べなくてはという時代には恐らく一人もいなかった病気ですよね。現象がそれぞれ違っても人々の心に風が吹き抜ける現代が生み出した病気だと思います。バラバラにされて人々の心の絆が弱くなっている、大切な情報が伝わらない、生活習慣病をみていてそんな思いを強くもちます。
国民医療費の増大は、国民経済にも影響を与えると言われています。予防医療などは進んでいるのでしょうか?WHOが強力なお酒と煙草をやめるキャンペーンなどをしていましたが?
やっと日本の政策のなかでWHOが入って来るようになりました。
 予防医療はお金のいらない良い方法です。今までなら「薬を飲みなさい。」ということで済んでいました。ところが現状はそれでは間に合わない。入院をさせるだけではいけない。その元を断つにはどうすれば良いかが問われ始めました。緊縮財政下でやっと認識されて現実の政策課題に登って来るようになっています。WHOの頑固なまでの対応がみのってきたようです。なにしろ煙草の広告がなくなりました。次はお酒だと思います。お酒が薬物であると云う基本認識が必要です。そして、病気になる前に叩く、いささか強引かも知れませんが煙草では禁煙ゾーンの急激な増加はその一つです。高知でも医師会館を始め、多くの病院が禁煙を実施しています。分煙も有りますがこれはあくまでも過度期の施策で、意味する本質は禁煙への移行です。世界の常識が「禁煙」になりました。
 下司病院はアルコール依存症の方が多く、お酒を我慢して頂かなくてはいけないので、煙草には大甘で遅れています。病棟に一室、外来に一ケ所の喫煙室を設けています。これをいつ撤廃できるだろうと検討しているところですね。
 自分自身の健康問題、家族の問題、国民全体の医療費の負担の問題を考えましたら、「節酒」「禁煙」の流れになるのは当然だと思います。
終末医療のありかたについて。最近はガンは患者に告知する事例が多いと聞いています。医師も多忙で言動まで対応が廻らないそうですが、ターミナルケアというのでしょうか。そのあたりはどうなっているのでしょうか?
  私の方の病院は終末医療の病院ではないですから、具体的な話は出来ません。
 情報公開がなされることが益々必要になってきています。医師だけに責任を押し付ける時代ではありません。全ての職種が逃れられない時代になってきたと思います。対応に手がまわるよう、その解決にボトムアップが必要な時代へと変化をしてきています。
 多忙な医師がすべてをカバーできるかと言えば難しいと思います。それは各病院で安全管理委員会などが出来ています。そのなかで対策はされるでしょう。
 私見ですが終末医療には患者様自身が断固として「自分に何をしてもらいたいのか、してもらいたくないのか」を紙に書く必要があります。意識のはっきりしている頃、元気な頃からから「事前に管を入れるのはこれこれとか」、遺書のようにはっきり明言しておくことが必要なのです。患者様が明確にしなければそれは進まないと思います。終末医療では「相方向性の意志確認」が問われています。医療側からの告知だけでは一方通行だと思うのです。
断酒サマースクール会場の様子です。
 
 良い病院との付き合い方についてアドバイスはありますか?高知「は病院の梯子」をする患者が多いやに聞きましたが。それは得策なのですか、損なのでしょうか?
 昔と異なり医療費がこれだけ高くなりますと一般的には少なくなりました。不況でもあり、梯子自体は減っていると思います。
セカンドオピニオンと云う主治医以外の医師が助言をして素人である患者様が自分の治療に納得をする、そういう新しい流れのことであれば患者様にとっても得策だと思います。
 お薬を二ケ所、三ケ所と複数の診療機関から貰って飲むのであれば、危ない行為です。それを防ぐ為には保険調剤薬局を一つに絞って、例えば胃薬等のだぶりやすいお薬を薬局のカルテでふせぐことが大切です。「かかりつけ薬局」を持つことをお勧めします。
今はどこの病院も安全管理に努め、研修を持ち変わってきています。転医や専門医にかかりたいから紹介状を書いてくれという希望にも快く応じてくれると思います。
 病院経営について。従来医療法人は特権的なイメージがありましたが。最近は金融機関も医療法人への査定が厳しくなったと言われていますが本当なのでしょうか?

医療法人へのお金の流れに聖域はないと思います。多くの病院は中小企業ですから政府のふるい落としの対象ですら有るのです。

すでに1万以上あった病院数は間もなく九千を切るでしょう。けんちゃんの認識はかなり古いと思います。

下司孝之さん
医療法人の不正請求などが報道されています。それは経営者の資質なのでしょうか? それとも病院経営に問題があるからなのでしょうか?
不正は分るものです。詐欺性の有るものも、誤認による請求過誤もごちゃごちゃに報道されることはかなわんと思います。
私の方でも誤請求ミスは数多いレセプトの中で毎月あります。とれるものもとってないという過小請求ミスも含めてありますが、患者様宅への支払い基金からの利用金額通知等が有りますから誰かを来たとか多くつけて請求をしていたら、ばれないはずがないですね。
 病院から見た高知はどのようなイメージなのでしょうか?
全国一病院が多いから病院が見えます。日本の10年前をいっている高齢者県です。
日本の他県とか高齢化が進んでいない県に発信するものはあると思います。今出来ることを一生懸命やる必要があります。
ですから医療でご飯を食べている人も多く、そうですね、二万人程がはたらいているのでは。精神科病床だけでも4000床、だいたい4000人が働いていると思いますよ。

このような社会保障の仕組で、高齢者を預かり、多くの若年労働力を京阪神に送りだすことが出来たのです。高知県だけで考えるのではなく日本の経済活動に高知県もこのような関係で関わっていたのです。それを生産しないものが病気になったから患者を不要なもの、厄介なものとしていく経済の仕組作りには反対です。

だれでもどこでもいつでもかかれる医療の質的な確保は社会保障の根幹、社会がバランスよく発展していく上での錘りのようなものです。