生け花の持つ精神的な効用について
 今週のゲストは、生け花草悦流家元の猪野伸一さんです。今日のテーマは「生け花の持つ精神的な効用について」でお話をお聞きします。
猪野さんはフラワーショップ花樹を経営されるかたわら、家元活動や所属する華道協和会の活動もされご多忙な毎日です。
 生け花は生ける側のほうも、鑑賞するほうも、心が和み、精神的に安定するのではないでしょうか?それは生け花の歴史のなかで「華道」という道をこしらえてきたからではないでしょうか?
生け花で使用される植物には制約はあるのでしょうか?また日本の花や西洋の花も一緒に活 けるのでしょうか?
 現在では生け花に使用される素材につきましては、基本的にはなんの制約もありません。ガラスであるとか金属類。川にあります流木。はては家庭用品なども生け花に使用する例もあります。
 また現在は世界中から毎日、東南アジアやヨーロッパからオセアニアから大量の花卉類が空輸され、輸入されています。そして私たちは世界各地の花を、まるですぐ近くにあるような感覚で
使用しています。
生け花の素材には制約がないと猪野さんは言われました。多様な表権方法があるようですね。
猪野さんは生け花をされる時は、どのような心境でされますか?また日頃お弟子さんたちに はどのような心構えで生け花をするように指導されているのでしょうか?
 私の生活はまさに1年365日、花とともにあります。花と向かい合った時は、不思議なことにいろんな悩み事などは忘れているようです。
 この枝をこういう風に使ったらいいとか。こういう風に活けるとか。次々に考えながら花を活けております。
 また自分の社中の者、お弟子さんたちには、まず基本的な活け方を繰り返し習得しなさい。それが出来た後は、やはり個性で花を活けなさい。そうしませんと花を活けましても、いつまで経っても面白くありませんよ。というスタンスで花を教えております。
生け花教室の様子です。基本に忠実に、そして個性的に楽しく活けるようにと猪野伸一さんは語っています。
 生け花の「精神的な効用」は、華道関係者ではない市民にはどのようなところにあるのでしょうか?「生け花セラピー」の効用があるのではないでしょうか?
 介護施設などの機能回復訓練に活用できるのではないでしょうか?
 あえて生け花と限定しなくても花の持つ「効用」はあります。小さな子ども達にとりましては花と接することによりまして、豊かな感受性を持つことが出来ます。
 先日申し上げましたように、日本の四季折々の微妙な変化を体で感じることが出来ます。
 それから「生け花セラピー」というお話もありました。これは現実に介護施設の高齢者達に教えるということではなしに、楽しんでもらう。ということは既に行われています。施設にいらしている高齢者の方々に一時、昔を思い出していただいたり、あるいは花に接していただく。そうした精神的な効用は間違いなくあると考えています。
 ホテルのロビーや、講演会の演台、結婚式会場、葬儀などにも花は欠かせません。
生け花との関係はどのようなものなのでしょうか?
 私たち日本人と花とはどんな場合でも切っても切れない関係があります。
 明治時代の著名な美術家でありました岡倉天心が「茶の本」を著しています。
 そのなかで花について述べていますので紹介したいと思います。
「喜びにも、悲しみにも花は我等の不断の友である。花とともに飲み、ともに食らい、ともに
唄い、ともに踊り、ともに戯れる。花を飾って結婚の式を挙げ、花をもって命名の式を行う。花がなくては死んでもいけぬ。」という風に言っています。
 たとえばホテルのロビーの花は、ホテルへお出でになるお客さまをもてなす花であります。講演会の演台の花は講演者に対する尊敬の念、とともに講演を聴きに来る聴衆のための花でありましょう。
 また結婚式の会場の花は、新郎新婦を飾り立てる花だけではなく、参列者をもてなす花でありましょう。また葬儀におきましても葬儀の花は亡くなった故人を顕彰する花です。さきほど私が岡倉天心の話をいたしましたが、あてはまるのではないかと思います。
写真は猪野伸一さんより提供。華道協和会主催の」展示作品です。草悦流の作品です。
 これは大変難しい質問です。私は基本的なことでは変わりはないと思います、生け花の歴史的過程はいったんおきまして、フラワーアレンジメントと生け花の本質の違いはないと思います。
 やはり、花と接したい、活けたいから活けるもの。そして人様に見ていただくもの。こういう観点に立てば、生け花もフラワーアレンジメントもなんら変わりががないと思います。
 明治の生け花が、浮世絵を通じまして西洋のフラワーアレンジメントに大きな影響を与えています。また現代ではフラワーアレンジメントの技術が、私たちの世界にも大きな影響を与えています。