安田純平さん講演会 その4
 
 イラク。なんであんな危ないところへ行かれるんですか?とよく言われます。危ないところへ日本人が出かけるのは、その人の人生ではないかと思います。
 どちらかと言いますと、その人の取材に協力した人やコメントしていただいた人達が、後で狙われると言うことの方が怖いわけです。そこの部分をどうするのかを考えないで、ジャーナリズムなんてものはやるんですかと。そこの部分は考えなくてはと思います。

 昨年イラクで亡くなられました橋田さんと小川さん。ひじょうに運が悪くて残念でした。また通訳も一緒に亡くなっています。2人の話が注目されます。通訳もなくなりましたし、車も大破し燃えました。そういうのをどうするのか。そちらもどうするのかは人として大事なのではないかと。そういうところを考えて現地へ入らなければなりません。それを含めた体制作りなのです。
 バクダットまで入ろうとすれば入れるでしょう。それだけではすまないので、そこのところの作戦を考えなければと作戦を考えているところです。

 シリアもそういう国なのです。シリアと言えばバース党が支配している国です。バース党といえば、サダム・フセインもバース党だったんです。シリアで始まったのがバース党です。基本的には同じですね。


 秘密警察があり、厳しく抑えています。ヨルダンなども一緒です。そういうところなんです。シリアも今批判されています反米勢力がイラクに入っていくのを見過ごしているのではないかということを言われています。

安田純平さん
 シリアの西側にあるレバノンと言う国で元首相が暗殺されました。その元首相は反シリアの立場でした。反シリアの首相を殺したのはシリアだろうということで、シリアは批判されています。
 アメリカとしましてもシリアの独裁を覆したいと言うこともいわれています。シリアも政権維持に神経を使っています。シリアに行きますとしょっちゅうデモが見れます。

 ダマスカスの旧市街のお城があります。楕円形の城壁があり市街自体が世界遺産です。なかには世界最古のモスクがあります。ぜひ皆さんも行かれたらいいです。治安の良い国です。
 そこで夕方6時ごろからデモをしています。バース党万歳とかアサド万歳とか、アメリカ打倒などのデモです。若い人などがたくさんいます。
 それから10月末にも数千人単位のデモもありました。だいたいこういうのは「官製デモ」です。日頃は街中ではこういうことは出来ません。お祭り感覚ですね。
 
イラク周辺諸国地図 東にイラン、北にトルコ,南にサウジアラビアと隣接しています。
 これは開戦前のイラクにそっくりです。3月20日に開戦しましたが、3月の半ば頃のイラクもこんな調子でした。現地の新聞などでも「昨日はデモがありました。平和を願うデモです。」とか書いています。しかしわたしは弁護士と連絡が取れず、なんと茶番なんだろうと思っていました。
 平和を求めますとか言いながら、秘密警察が暗躍し、国民がアメリカに撃ち殺されたのではないかという裁判が起きているにもかかわらず、その裁判資料を公開しようともしない。国家とはこういうものなのかと感じます。こういう国なのでそうなのかもしれませんが。
 
 国家=政権を守るためには、国民が犠牲になっても良い。国家とはそういうもんですね。ただそういうものではいけないということで、それを決めるのが憲法です。その憲法の枠を外れたことは国家は出来ません。それが憲法の基本です。
 近代憲法の基本です。国家と言うものに押さえつけられた国民の側からの国家に縛りをつけましょうと言うのが、近代憲法の基本です。
 日本で今改憲というものが出ていますが、それを覆そうとしています。憲法というものは時代とともに代わるものと、政治家達は言っています。「国民のありかたを決める憲法」というものに、変えようとする人がかなりいます。自民党とかそのあたりはその流れです。

自民党の新憲法草案。新憲法の「たたき台」

国民的な議論が必要であると思います。

その趣旨とねらいにつきましては、当番組では、自民党県議である中西哲さんに出演いただき、解説していただきました。

 

http://www.nc-21.co.jp/dokodemo/whatnew1/nakanishi/nakanishi1.html

 だから国を国を守るという流れと、1人でやろうと犠牲になるというのとをどう考えるのか。そこで国家というもの理屈に対して、押し返せる憲法と言う理屈をちゃんと持っているのか。ということが、大事です。
 そのあたりそういうケースが表だってはないでしょう。やはり「国家と国民」人間としての権利をどう考えていくのかを日本の中でわたし達は考えていく必要があるのではないでしょうか。
 シリアとかでスパイ容疑にされましてもどうってことはないですね。日本へ帰ればどうってことはないのですね。だからその国の中に住んでいる皆さんは大変な訳でして、日本でも自分で住んでいるところがどうなのかをちゃんと考えるべきですね。
 やはり盗聴されたわけでして。日本でも盗聴なんて簡単にできるわけです、いま「共謀罪」というものが出てきています。簡単に言うと「あいつを殴ってやろうぜ」「うんそうしよう」と飲みながら喋った時点で犯罪になってしまう。実際にやってなくても、やとうとした、合意した瞬間に犯罪とする共謀罪が国会で審議されています。

 どこで合意した、犯意をどこでどう調べるのと言いますと、基本的には「盗聴と密告という社会」になってきますよね。そんな社会に基本的に安心して住めるものなのでしょうか。
 隣の人が自分を裏切って当局に密告するかも知れない。このなかに何人秘密警察がいるのだろうか。そんな社会になりますね。すぐにそうならなくてもなりうる可能性のあるものをこしらえて良いのか。と思います。考えるべきでしょう。

 そのあたり日本はこれから大変なところであると考えています。
 メディアの話も今日しましょう。と言っていましたので、急いでやります。
 昨年こちらへお邪魔したときに、新聞を持って来まして、こんな報道ありました。その話をもう一度やります。ひじょうに教科書的だったので。
 わかりやすいので。2004年10月5日です。
 某全国紙です。このなかで「イラクで爆破がありました。」という記事が一面の真ん中にあります。新聞のトップページにありました。
 こんな写真も地図まであり、おおきなニュースとして扱われています。基本的には何段分見出しがあるかで記事の扱いがわかります。(だいたい15段ある中で)。
 新聞の1面トップは目に付きやすいように大き目の字の見出しが使用されます。また段数もたくさん使用します。
 段数をいっぱい使えば見出しは大きくなります。簡単に紙面のなかでどの記事が扱いが大きいかは、見出しの段数を見られたらわかります。一番少ないのは、1段で、いわゆる「べた記事」と言われています。
 この記事は4段もあります。「バクダッドで連続テロ」「「軍施設ホテル近くで爆破」と。書いています。現場がありまして、バクダットのイラク軍施設入り口と、高級ホテル付近の2箇所で爆破と書いています。少なくても13人は死亡したと。
 イラク軍やホテルの外国人客らを殺傷と書いています。治安を一層の混乱を狙ったと見られると書いています。
 ひじょうにびっくりした記事なのですね。
 バッダットホテルと書いてあります。バクダットホテル。実は宿泊したことがあります。戦争前の2月に3泊しています。経済制裁がありましたので、イラクのホテルはどこもぼろぼろでしたが、バクダットホテルの飯は美味かったですね。
 記憶のあるホテルです。これが爆破されたというのでびっくりしました。さきほどの新聞の1年前ですが、バクダッドホテルの前で撮った写真です。
 奥に見える大きなホテルがバクダッドホテルです。バクダット中心部にサドン通りという繁華街があります。イラクに行った人なら間違いなく行く通りです。
 大通りにありまして、西側に引っ込んだところにあります。それはこういう風に塀で塞がっています。高さ3メートルぐらいの塀になっていまして通れません。
 戦争前は普通に真っ直ぐに車は入れましたが、入れなくいされています。車道と歩道の間に塀がありまして、歩道が広いです。そういうわけで左側の隙間から、車も人もはいれます。そこに検問所が出来ていまして、普通は入れません。
 武装した警備員が立っています。屋上にも見張りがいます。裏側にも何十にも障害物を置いています。厳重なんですね。
 なかなか入れないのです。これはホテルではないんです。ホテルとして経営がしているわけではない。現地ではどう言われているかといいますと「あれはCIA(アメリカ中央情報局)とイスラエルのモサド(諜報機関)ははいっているんだ。}とのことです。
 こちらのホテル。この写真を撮った翌日に爆破されています。爆破されているときにいつもわたしは居ないので、やはりこの職業向いていないのではないかと思いますところなんですが。。・

 2003年10月の写真。さっきの爆破の次の日の写真ですね。米軍関係者のほか、CIAや、米英の暫定占領当局、関係者が宿泊してると書いています。旧フセイン政権崩壊直後から米軍が接収しており、高いコンクリート塀がめぐらされ、戦車も常時配置されている。というホテルです。
 戦車のいるホテルなんですね。人が入れない。しかも撮影禁止なんですね。撮影禁止と言うビラを見て、「ああそうですか」と言って、撮影をするのが仕事です。
 怪しいところほど、撮影禁止なんです。外からも撮影が禁止されているホテルなんですね。
 ホテルと呼んでいいのでしょうか?民間人も入っていますが、それはアメリカの民間警備会社の人たちです。普通に考えれば米軍やCIAのいるホテルが爆破された。ホテルというか米軍のいる建物が爆破されたと言うのが、わたし達の見方ですね。
 それが「外国人客を狙った」と書いているのですね。ホテル爆破テロと。
何の罪もない純粋無垢な外国人観光客を狙った卑劣なテロのような書きかたです。いわれのない爆破で狙われたとのニュアンスですね。
 実際に中へ入りますと、米軍関係者とか、CIAの人たちばかりで、イラク戦争をしている当事者の皆さん方がいるところです。
 だからCIAや米軍がいる爆破などは普通の戦争です。それを「ホテルの外国人客を狙った」と、「客」と1文字はいるだけで全く印象が変ります。どんな客なのかとは記事には書いては居ません。さきほどの1年前の記事にはCIAとか米軍関係者とか 書いていますのに。こちらの記事には触れていません。
 「客」と1文字入れてしまうだけで、がらっと変えてしまってのがこの記事なんですね。なんでこの記事は書いたのだろうと考えてしまいます。
 当日同じ1面のトップ記事が、「多機能弾力的な防衛を提言」という小泉首相の私的諮問機関「安全保障と防衛懇談会」の提言ですね。
 ここが小泉首相に対して「日本の防衛をこういう風にしましょう」と提言したのですね。自衛隊のここ10年間を決める「防衛大綱」に対しての提言でもありました。
 講演会終了後安田純平さんに質問する学生。若い人舘が参加し、イラクの問題を身近に感じるようになれば、少しは日本は変ることでしょう。
 前の日にそれが出ました。「国際テロや弾道ミサイルなど新たな脅威に対する為、多機能の弾力的な防衛を出来るようにする」を提言したと記事にあります。テロミサイルに迅速対応。武器輸出3原則の緩和。国際協力を自衛隊の本来業務とすること。

 自衛隊法によって縛りをとき、「日本国内と同じように自衛隊を海外に展開しよう」と言う内容の報告書です。基本的にその方向に変化しています。
 武器輸出3原則も、基本的に日本から武器を出さないと言うところでしたが、売らないとか。つまり日本の平和主義を根本的に変えようと言う転換点であるわけですね。
 それでなんで必要なのかそして上げているのが、「テロやミサイルへの迅速な対応」なのですね。新たな脅威があるので、従来の自衛隊ではまずいのだ。だから防衛大綱を変えるのだと言うことですね。
 それについては海外にも展開し、国際協力を(米軍と)進めて、テロ対策も進めましょう。と言う内容なんですね。
 つまり新たな脅威がなければ変化をする必要はないわけですね。新たな脅威とはなんですかと言う時に、ちょうどのタイミングでイラクのバクダッドで爆破事件がありました。それを「活用」した紙面構成としか読みようがありません。
 昨年の10月は爆破が多くて、1日100件ぐらいは起こっています。首都での爆破で大きな事件には変りませんが、毎日起きていることなんですね。ですので、この某全国紙以外の新聞では、6ページあたりの国際面で、写真もない2段程度の記事の扱いでした。

 一面でこれほど大きな扱いで、「みなさんどうぞ見てください」という紙面づくりをする。なんでこの新聞はここまで強調したのだろうか?他所の新聞はそうでもないのに。
 それはこちらの記事との関連性を考えざるを得ません。そういう関連すけをしませんとどうしてこの記事が1面に大きく掲載されたのか理由が見当たりません。

 そのなかで光ってくるのが「客」の1文字ですね。これがCIAが入っているホテルですよというのでは全然違います。テロとは言いにくいでしょう。
 こたちら新聞社の人に聞いても記者レベルでは「ここまでやるのかな」ということですね。デスクやその上からの圧力なんでしょうか?
 「客」と1文字入れることに上手くのっかって使用したのかなと。

 そういうわけで複数の新聞をみていますと、よくわかります。新聞記事と言うものは客観性が求めらますよね。実際は紙面は限られていますので、新聞社が選んだ記事しか紙面には掲載されません。
 実際に記者が選んだ題材でしかないですし、記者と新聞社が選んだ情報しか載りません。それも絶対にそうですし。客観的な報道などはありえません。すべて取捨選択の報道でしかありえまません。
 ではなんで、流してきたのかと言うことを踏まえて読まないと、情報を得たことにはならないのですね。選んだことも情報ですね。新聞とかテレビとかを見るときは、流したものを見ることとは別に、何でこれを選んだんだろうということや、選ばれなかったことはなんだろうかとかと考える姿勢が大事ですね。
 さきほどのホテルですね、。どういうホテルなのかは書いていません。どういう客かも書いていません。昨年10月と言いますと日本人の青年香田さんが殺害された時期ですよね。かれは「無謀だ」と言われたのではありませんか。
 その時期に外国人観光客が宿泊すつようなホテルがバクダットにあるのか?どんな「客なのか」この人たちは?と疑問がありますね。記事にはそのことは書いていません。
 読んでいますと「情報の穴」が結構あります。その「穴」の部分を埋めてみるとか。自分で調べますと、1年前にもやはり爆破されているのかとか。もっと突っ込んだ情報が見えて来ます。ですので余裕のある人は隙間探しもして情報を読んでいただきたいですね。
 繰り返しますが、「なんでこの記事が選ばれたのか?」「なんでこんな紙面構成なのか」を記事が単独でなくて、周りと関係はあるのか?記事の中で入っていない情報とは何かとか?言うところを読んでいくといいのかなと思います。
 毎回新聞記事もいちいちそれやっていって調べることはそれはなかなか困難です。
 最低限「選ばれた情報だけが載っているんだ」ということです。でもそれはしようがないことです。そのことで責めても新聞社はどうしようもないわけですね。限られていますし。紙面は。新聞社として強調し、これを流してくるわけですから、それとして受け止めそれが全てではないということを基本姿勢として持つことが大事なことではないかと思います。
 「郵政民営化」もありましたけれども、あの時は、与党は「争点が郵政だ」とか言いましたが、争点を決めるのは基本的には有権者です。かれらがなんと言おうと、投票する側が決めるべきなのです。

自民党総裁小泉純一郎氏は「郵政民営化問題」しか発言しなかったし、マスメディアもそれに乗っかり、そればかり報道しました。

結果2005年総選挙は与党自民党の歴史的な大勝となりました。

 
 投票される側の人間が争点を決めるのは何様だと思いますが、メディアもそれを無批判に出してしまいますす。昔のわたしの同僚の記者と話していましても「イラクのことなどは争点にならないね。」と言います。では「だれに聞いてならないねと言うのか」とひじょうに疑問に感じます。
 結局候補者とかなんかにいろいろ聞きまして、「これが争点だ」という話になっているようです。なんていうのか、新聞、テレビなども上手く「郵政民営化」に集中させられたのかなと。わかりやすいところから見ますと。
 まあそういう具合で物凄く単純化した報道にされかねないので、今後憲法の話とかいろいろ出てきますが、そういった情報をいかに受け止めるのかと。という姿勢はとても大事ですよね。なんでこれが選ばれたのか。基本的な姿勢です。
 読者の側でそういう姿勢で見ていますと、新聞社の方も手を抜いていられないのですね。一生懸命今以上にやると思いますので、これまで以上に良い物が出来上がってくるのではないでしょうか。

 是非その新聞社とかテレビ局とかの付き合い方を考え直したらと思います。わたしも新聞記者をしていましたが、読者の反応がないのがつまらないのです。反応があるのはどうでも良いつっこみをしてくる常連のおじさんとか、お前はまた字を間違ったという反応をするおじさんばかりですね。

 
 なんでこの記事を書くのかとか。なんで書いていないのかとか。不満があれば電話するとか。今日の記事は面白いとか反応がありますと記者はやる気が出ますので、書くことによってメディアの側はいじっていただくのがありがたいのですね。

 それを是非やっていただくいといいのです。こちらは地方紙で地元の皆さんを凄く大事にしていると思いますので、とにかくいじって、毎日電話しますと「またこの人か」と思われますので、何人かで交代しながら電話してみるとか、とにかくいただいたら良いかなと思います。

 そういうことで最後長くなりました。現地の話とわたしの話も含めて、情報に対する姿勢をもう一度考え直すことが出来ればありがたいなと思います。
 ご静聴どうもありがとうございました。

 

参考 自民党憲法改正草案について 

 
http://www.nc-21.co.jp/dokodemo/whatnew1/nakanishi/nakanishi1.html

 
安田純平さん講演会を地元新聞が記事にしていました。